本文へ移動

研究所

Menu

すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 耳垢(みみあか)と認知機能の意外な関係 【認知症予防】

耳垢(みみあか)と認知機能の意外な関係 【認知症予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

普段、皆さんは何気なく耳掃除を行なっていると思いますが、耳垢(みみあか、”じこう”とも読みます)に2種類あることをご存じでしょうか。白人や黒人では、ほとんどの人がねばねばした「湿性耳垢(しっせいじこう)」というタイプです。一方、日本人をはじめとした黄色人では、カサカサした「乾性耳垢(かんせいじこう)」というタイプが半数以上を占めます。

たかが耳垢でも、異常なたまり方をする場合があります。耳垢が栓のように詰まった「耳垢栓塞(じこうせんそく)」という状態になると、これはもはや立派な病気で、耳鼻咽喉科医でないと耳垢を取ることができませんし、難聴や感染の原因にもなります。耳垢栓塞は湿性耳垢や、耳の小さい子ども、耳垢を排出する力が弱くなった高齢者に多く見られます。アメリカの高齢者向け施設での調査は、6割以上の入所者に耳垢栓塞があり、耳垢栓塞を取ることで聴力が改善しただけでなく、認知機能も改善されたことが報告されています。

 

そこで、乾性耳垢の多い日本ではどれぐらいの方々に耳垢がつまっているのか、また、耳垢と、聴力や認知機能に関連があるかどうかについて、NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の第5次調査のデータで検討してみました。

はNILS-LSAで鼓膜ビデオ撮影した結果を右耳、左耳で分類したものです。高齢になるに従って、正常鼓膜の頻度が少なくなっています。高齢では、鼓膜に石灰化(注)のあるような異常鼓膜の件数、耳毛や外耳道狭窄(がいじどうきょうさく)(注)などの原因で鼓膜確認できない件数も多いのですが、耳垢で鼓膜が観察できない方々も増加しています。

右耳、左耳それぞれについて、正常鼓膜、以上鼓膜、耳垢による鼓膜確認不可、耳垢以外の鼓膜確認不可、の割合を40代、50代、60代、70代および80歳代以上の年代別に示した図。

図:耳垢による鼓膜確認不可の割合

では、(鼓膜が観察できないくらいの)耳垢があるとどれぐらい聞こえに影響するでしょうか。耳垢がある人は年齢も高いので、年齢などの要因の影響を考慮して検討した結果、耳垢があると平均7dB(デシベル)、聴力が悪いことが分かりました。7dBは、誰もが音の大きさの変化を感じる程度です。また、耳垢のある人では認知機能が低いことも分かりました。

この結果については、耳垢による難聴のせいで認知機能が低下するという可能性、認知機能の低い人は耳掃除の頻度が少なく耳垢がたまりやすいという可能性の両方が考えられます。その後の別の調査では、認知症の人では耳垢栓塞になる人が多いこと、また、そのような方々で耳垢栓塞を除去すると聴力が改善するとともに認知機能も保たれやすくなることが分かりました。つまり、両方の要因が混在していると考えられます。

ただし、耳をかき過ぎると、耳の中に傷がついたり、外耳炎になりやすくなったりすることもあります。無理をせずに、耳鼻咽喉科医に相談することをお勧めします。

 

(注)
石灰化:鼓膜にカルシウムが沈着すること
孔:鼓膜に穴が空いた状態
外耳道狭窄:外耳道が狭いこと

高齢で耳が遠い方々は、1年に1度ぐらい、耳垢がたまっていないか診察を受けるとよいでしょう。

 <コラム担当:杉浦 彩子>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*

杉浦彩子、内田育恵、中島務、西田裕紀子、丹下智香子、安藤富士子、下方浩史.
高齢者の耳垢の頻度と認知機能、聴力との関連.
日本老年医学会雑誌(2011)49(3)pp325-329.


ご関心のある方は、こちらもご覧下さい

杉浦彩子.ブルーバックス 驚異の小器官 耳の科学:聞こえる不思議からめまい、耳掃除まで.講談社(2014).このリンクは別ウィンドウで開きます

【認知症予防】関連記事などもぜひご覧ください。

(参考)健康長寿ナビ専門ドクター解説記事のご紹介です。

このトピックスに関連する外来診療科のご案内です。