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補聴器は何歳から必要?

はじめに

「補聴器を付けると、年寄りくさい感じがして」という言葉を、外来でよくお聞きします。
最近、だんだんときこえが悪くなってきた。聞き返しをすることもときどきある。
でも高いお金を出して補聴器を買うまでではないかな?
そう迷われている方は意外と多いのではないでしょうか。

一方で、「早めに補聴器をつけると良いと考えて補聴器をお店で買ったものの、うるさいだけで役に立たず、タンスの肥やしになっています」というようなお話もときどきお聞きします。

いったい何歳くらいから補聴器が必要になるのでしょうか?

難聴の程度:聞こえ方 軽度(25~39デシベル):小さな声や騒音下での会話では、聞き間違いや聞き取りづらさがある 中等度(40~69デシベル):普通の大きさの会話の聞き間違いや聞き取りづらさがある 高度(70~89デシベル):非常に大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえない 重度(90デシベル以上)補聴器を用いても聞き取れないことが多い 日本聴覚医学会 難聴対策委員会報告(2014年)より抜粋・改変

図1 難聴の程度分類

難聴の程度

音が聞き取りづらくなることを難聴と言いますが、一般的に中等度難聴~高度難聴の方には補聴器が役に立つといわれています。
難聴の程度の分類法はいくつかありますが、ここでは日本聴覚医学会の分類をお示しします。

難聴の原因

ここで、一度難聴の原因についてご説明します。
中年期以降にゆっくり数年単位かけて進む難聴の代表的な原因には加齢、騒音があります。
加齢以外に特別な原因がない難聴を加齢性難聴といいます。
長期間強い騒音にさらされることによって、徐々に発症する難聴を騒音性難聴といいます。騒音曝露を減らすことが予防になりますが、一度発症すると改善は困難です。

その他、急に進む難聴をきたす疾患を下記に示します。
年齢にかかわらず、急に出てきた難聴には要注意です!

 

疾患:主な治療 耳垢:耳掃除、専用の器械をつかって丁寧にお掃除します 外耳炎・中耳炎(急性中耳炎、滲出性中耳炎、真珠腫性中耳炎など):内服や点滴、耳処理場合によっては手術 突発性難聴※60歳代が発症のピークですが、どの年代でも発症することもあります:内服や点滴治療 その他の急性感音難聴(メニエール病、自己免疫疾患、音響外傷、薬剤性など):内服や点滴治療 聴神経腫瘍:手術まで行うかどうかの相談場合によっては内服や点滴治療 頭蓋内疾患(脳梗塞、脳腫瘍など):もとの疾患に対する治療 外傷:外傷部位による

図2 急な難聴をきたす代表的な疾患

耳垢、中耳炎に関しては、抗生剤や耳処置などによる治療が有効であることが多く、突発性難聴や急性感音難聴の治療開始は早いほど効果が高いといわれています。脳梗塞や脳腫瘍と診断された場合には、もとの病気に対する治療が必要なことは言うまでもありません。

急に始まった難聴については、早めに耳鼻咽喉科を受診しましょう。
騒音曝露歴もなく、上記のような疾患が考えにくいときには、加齢性難聴が疑われます。


 

 

年代別平均オージオグラム NILS-LSA第7次調査より 40歳代男女:1000ヘルツをピークに8000ヘルツで15デジベルまで落ちる 50歳代男女:1000ヘルツをピークに8000ヘルツで25デジベルまで落ちる 60歳代男女:1000ヘルツをピークに8000ヘルツで40デジベルまで落ちる 70歳代男女:1000ヘルツをピークに8000ヘルツで55デジベルまで落ちる 80歳代男女:1000ヘルツをピークに8000ヘルツで65デジベルまで落ちる

図3 年齢別の平均的な聴力レベル

難聴が多くなる年齢

音を聞き取る感覚器としての耳に、加齢に伴う組織の変化が始まり、聴力が低下し始めるのは30歳代からと言われています。年齢別の平均的な聴力レベルの図をお示しします。

国立長寿医療研究センターでは、多くの地域住民の方々にご協力いただき、老化に関する長期縦断疫学研究 (National Institute for Longevity Sciences-Longitudinal Study of Aging, NILS-LSA)を行っており、その結果、難聴有病率、発症率について次のようなことが分かっています。

難聴有病率(軽度難聴以上の難聴がある人の割合)は65歳以上で急増し、70歳代前半では男性の約5割、女性の約4割、70歳代後半では男女とも約7割、80歳代では男性の約8割、女性の約7割に軽度難聴以上の難聴がみられます(文献1)。
また難聴のなかった60歳代前半の方が10年後に難聴を発症する割合(発症率)は約3割、70歳代前半の方が10年後に難聴を発症する割合は約6割であり、もともときこえが良くても、10年経過すると難聴を生じる可能性は十分あります(文献1)。

 

難聴の有病率(軽度難聴以上):60歳代後半・70歳代前半・70歳代後半・80歳以上 男性:44パーセント・51パーセント・71パーセント・84パーセント 女性:28パーセント・42パーセント・67パーセント・73パーセント 文献1より抜粋・改変

図4 難聴の有病率

補聴器は何歳から必要?

タイトルの問いに対してのお答えとしては、とくに60歳代後半からは難聴を生じる可能性が高まるため、日常生活の会話で聞きづらさや聞き間違いがないかどうか、振り返っていただき、症状があるようであれば、一度きこえの検査(聴力検査)をおすすめします。少なくとも中等度以上の難聴があれば、日常生活で補聴器が役立つ可能性が十分ありますし、基準を満たしていなくても、ご自身の生活スタイルによっては補聴器を使うことで周囲の方とのコミュニケーションをとりやすくなる可能性があります。また最近ではスマートフォンと連携して通話音声や音楽を補聴器に直接飛ばす機能など、便利な機能を持った補聴器が増えてきています。補聴器が「年寄りくさい」ものというより、より「若々しく」過ごすためのツールとなってきています。

なお加齢性難聴は数年以上かけてゆっくりと進行するため、自分では気づかずに、家族や友人に指摘されてようやく気づく、ということもよくあります。自分自身が聞き取りづらさで困っていなくても、周囲の方にすすめられた場合には、一度聴力検査を受けられることを検討してみてください。

とくに80歳代以上で補聴器を始めることを検討される場合には、病院以外での簡易的な検査やご自身の努力だけでは、ベストな状態で補聴器をスタートすることが難しい場合が多いです。病院での聴力検査、補聴器をつけてことばを聞き取るためのリハビリテーション(リハビリ)が役に立つ可能性が高くなります。80代以上で補聴器を始めたい方は、一度病院でのご相談をお勧めします。

 

補聴器×リハビリ!?

補足ですが、補聴器をうまく使いこなすには練習が要ることをご存知でしょうか?
長い間聞いていなかった音を聞き取る、というのは実は難しいことなのです。
世の中には自分が聞きたい音のみならず、お皿のガチャガチャ、新聞紙のカサカサ、足音のパタパタ、自動車のブーンなど、雑音がいっぱいです。その中から会話などの必要な音を選び出して「聞き取る」ことができるようになるまでには時間がかかります。

一つの目安として、自分の聴力に合わせて適切に利得(補聴器の周波数ごとのボリュームのようなもの)を調整された補聴器を、1日7~10時間以上、3ヶ月間、装着し続けることで、補聴器を十分使いこなせるようになるといわれています(文献2)。そのような練習そのものも「リハビリ」の一つといえます。もともとの語音弁別能(「音」を聞き取る能力とはまた別の、「ことば」を聞きとる能力)が悪い方はとくにこの段階で苦労される可能性があります。当院では、独力での補聴器の練習が難しい方を中心に、ことばの聞き取りの改善を目標として、補聴器を装用した上で文章追唱訓練を用いたきこえのリハビリを行っております。

当院耳鼻咽喉科ではひとりひとりのニーズに寄り添って、良いきこえ、健康作りのお手伝いをいたします。きこえや補聴器についてお悩みがありましたら、補聴器外来にお気軽にご相談ください。

※当院へ補聴器のことで初めて受診される時は、まず耳鼻咽喉科に受診していただき、最初に聴力検査、語音検査(ことばの聞き取り検査)などの検査を行います。耳鼻咽喉科で必要な検査を終えてから、補聴器外来を予約するかどうかの相談を行います。ご高齢でお一人での意思決定能力に不安があると考えられる方には、耳鼻咽喉科受診時にご家族の同伴をお願いしております。

参考リンク