すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 難聴と「人とのかかわり」について
トピックスNo.33 「知的な能力と難聴の関係」でもご紹介したように、高齢者にとって身近な問題である「難聴」がもたらす不利益として、これまでに認知機能低下や抑うつなど、多くのことが報告されています。今回は、高齢者の難聴と「人とのかかわり」についてご紹介します。
家族、友人、同僚など、ある社会に属している個人と個人のつながりを、社会的ネットワークと呼びます。社会的ネットワークは、個人の精神的な健康や幸福度と深く関係しています。社会的ネットワークの中で、付き合いのある人の数を「ネットワークサイズ」と呼びますが、ネットワークサイズが小さいと、認知機能の低下、心疾患や脳卒中の発症や、さらには死亡率にまで影響するという報告があります。つまり、人とのかかわりは心身の健康に大きく影響することが推測されます。
では、高齢者の難聴と「人とのかかわり」の間には関係があるのでしょうか。
今回はNILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の第7次調査のデータを用いて、難聴の有無と社会的ネットワークの関連について検討しました。
まず、社会的ネットワークは「コンボイモデル」に基づく方法で調査しました。この方法は図1のように、中心に「あなた」と書いてあり、その周りに大きさの異なる3つの円が書かれている質問紙を使います。この3つの円の中にそれぞれ、親しさの程度に応じて、自分にかかわりがある人々を書き込んでいくものです。今回は、ここに記入された人数について、関係性(家族・親族か、それ以外か)と親しさの程度(第1円、第2円、第3円)の観点も含めて分析しました。
図1:社会的ネットワークの記入例
その結果、難聴がある人は、難聴がない人と比べて、3つの円に記入された合計人数が少ないことが分かりました。さらに、関係性別にみてみると、記入された家族・親族の人数は難聴の有無に関わらずほぼ同じであるのに対して、家族・親族ではない人に関しては、難聴がある場合は記入された人数が少ないことが分かりました(図2)。
図2:難聴の有無別での記入された合計人数、および関係性別での人数
難聴の有無で記入された家族・親族の人数に差はないが、家族・親族以外の記入された人数は難聴がある場合に少ない。難聴があると全体の記入された合計人数も少ない。
注)解析には一般線型モデルを用い、年齢、性、教育歴、抑うつ傾向、老健式活動能力指標の得点を調整した。
また、親しさの程度に応じて各円に記入された人数についてみてみると、心理的な距離がより近いことを表す第1円と第2円に記入された人数は難聴の有無による差はありませんでした。しかし難聴のある場合には最も外側の第3円に記入された人数が少ないことが分かりました(図3)。
図3:難聴の有無別での第1~3円の各円に記入された人数
難聴の有無では第1・2円に記入された人数に差はないが、難聴者では第3円に記入された人数が少ない。
注)解析には一般線型モデルを用い、年齢、性、教育歴、抑うつ傾向、老健式活動能力指標の得点を調整した。
今回の結果から、難聴があると社会的ネットワークのサイズが小さく(すなわち、付き合いのある人数が少なく)、特に心理的距離が遠い第3円に含まれる人数や、家族・親族以外でかかわりがある人数が少ないことが明らかとなりました。
難聴の予防や早期発見、補聴器導入などを介して、ネットワークサイズを維持することができるか、高齢者が人とのかかわりを持ち続ける豊かな毎日を実現するために、更なる研究が望まれます。
ご家族、ご友人との会話に聞きづらさを感じる場合は、耳鼻咽喉科で相談しましょう!
<コラム担当:小川 高生>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* |
このトピックスに関連する記事もぜひご覧ください。
このトピックスに関連する外来診療科のご案内です。