すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 健診聴力の異常なんて大したことない? いえいえ認知機能低下の要注意サインかも【認知症予防】
人間ドッグや健康診断で、聴力検査を受けたことがありますか。健康診断の結果、聴力異常を指摘されても「実際には困っていない」と、あまり気に留めていない方が多いのではないでしょうか。
健康診断の聴力検査では、1000Hz(ヘルツ)と4000Hzの2種類の音の「高さ」で測定するのが一般的です。1000Hzは普段の会話の中心的な音域の音で、4000Hzは子音の聞きとりに必要で、長期間大きな音にさらされることで、聴力が低下しやすい音域の音です。それぞれの音の高さについて、規定の音の大きさで「聞こえる」か「聞こえない」かを、左右それぞれの耳について測定します。どのくらい小さい音まで聞こえるかということも聴力の1つの指標ですが、一般の健康診断では、そうした「聞き取れる音の最小値(聴力レベル)」は測定されていません。しかし、このような簡便な聴力検査の結果からも、認知機能低下の要注意サインを読み取れることが研究から明らかになりました。
NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の聴力検査では、何種類かの高さの音を使って、それぞれの聴力レベルを測定しています。今回は、NILS-LSAの第7次調査に参加してくださった60歳以上の地域住民1,249名を対象として、一般の健康診断で行われる聴力検査の基準を用いて判定した聴力と、認知機能との関連を検討しました。聴力については、左右耳の1000Hzと4000Hzの4箇所すべてが聞こえている場合を「健診聴力合格」群、1箇所でも聞こえなかった場合を「健診聴力不合格」群としました。認知機能については、MMSE(Mini-Mental State Examination:30点満点)という検査を用いて測定し、MMSE得点が27点以下の場合を「認知機能低下の疑いあり」と判定しました。
その結果、健診聴力合格群は健診聴力不合格群よりも、MMSEの点数が高いことがわかりました(図1)。また、「認知機能低下の疑いあり」の方の割合は、健診聴力合格群では27.4%であったのに比べ、健診聴力不合格群では41.3%と高値を示しました(図2)。なお、健診聴力合格群の平均年齢が、健診聴力不合格群よりも低く、年齢の違いによる結果である可能性が考えられたため、年齢の影響を調整した解析も行いましたが、依然として、健診聴力不合格群では、「認知機能低下の疑いあり」の割合が高いという結果が示されました。
図1:健診聴力の合格/不合格とMMSE得点との関連
図2:健診聴力の合格群/不合格群における「認知機能低下の
疑いあり」の占める割合
今回の結果から、健康診断では聴力の一部分を測定しているにすぎませんが、そこで指摘される聴力異常は、認知機能低下の「要注意サイン」になっている可能性が示されました。なお、本研究の結果は、聴力の低下が認知機能の低下の原因になるといった因果関係を示すものではない点には留意が必要です。しかし、健康診断で手軽にわかる要注意サインを、大したことはないと放っておかず、聞こえにくさに対策をとり、認知機能を維持する取組みを始めるきっかけにしていただきたいと思います。
人間ドックや健康診断で聴力異常を指摘されたら、耳鼻咽喉科で正確な評価を受けて、対策を相談しましょう。
<コラム担当:内田育恵>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* Uchida Y, Sugiura S, Shimono M, Suzuki H, Ando F, Shimokata H, Tange C, Nishita Y, Otsuka R. Can hearing screening criteria at general health checkups be an indirect indicator of frailty and cognitive deficit in the older population? - with prevalence estimates based on updated World Health Organization hearing loss classification. Geriatr Gerontol Int. 2025 Apr;25(4):504-510. doi: 10.1111/ggi.14992. |