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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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はなしのおはなし~歯の本数と抑うつの関係~

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

突然ですが、みなさんは現在、ご自分の「歯」が何本あるのかをご存じでしょうか?歯の本数は動物の種類により違いますが、一般的にヒトの成人では親知らずも含めると32本の歯があります。私たちは毎日、食事の際に歯を使いますので、歯は生きていく上で欠かせない存在です。

しかし、加齢とともに歯の本数は減る傾向にあります。これまでの研究で、歯の本数が少ないことは、脳卒中などの疾患の発症や死亡率の上昇と関連することが報告されています。今回は歯の本数と抑うつ症状の発症との関連について、約20年間の追跡データで検討した研究結果をご紹介します。

NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の第3次調査に参加された2,378名の中から、第4次から第9次調査のいずれにも参加されなかった方々や、解析に使用する変数に欠損のある方々、第3次調査の時点で抑うつ症状のある方を除いた1,668名(平均58.8歳)を解析対象としました。まず、第3次調査時点での歯の本数に基づき、「10本未満」、「10-19本」、「20本以上」の3群にグループ分けをおこないました。抑うつ症状はCES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)の日本語版を第3次から第9次調査で実施し、抑うつ症状の有無を判定しました(注)。そして、第3次調査時点で残存している歯の本数の3グループ間で、その後の抑うつ症状の発症のリスクについて、年齢などの影響を調整した解析を行いました。

上:図1残歯本数グループの割合。全体は10本未満9.3%、10-19本11.4%、20本以上79.3%。男性は10本未満9.6%、10-19本11.9%、20本以上78.5%。女性は10本未満9.0%、10-19本10.8%、20本以上80.2%となっている。下:図2残歯本数と抑うつ症状発症関連(オッズ比)。全体で10本未満1.60、男性の10-19本2.08、10本未満2.23で抑うつ症状発症リスクが高いことを示している。

(注)CES-D得点が16点以上の場合を「抑うつ症状あり」と判定。

まず、第3次調査時点での残存している歯の本数が「20本以上」であるグループが約80%を占め、「10本未満」および「10-19本」のグループはそれぞれ約10%でした(図1)。

そして解析の結果、全体としては、残存する歯の本数が「20本以上」のグループを基準とした場合、「10本未満」のグループではその後の抑うつ症状の発症リスクが高いことが示唆されました(図2)。

さらに、男女別に解析を行なった場合、女性では残存する歯の本数と抑うつ症状発症の間に関連が示されなかったのですが、男性では歯の本数が「20本以上」のグループと比較すると、「10本未満」、および「10-19本」のグループはどちらも、その後の抑うつ症状発症のリスクが高いことが明らかになりました。

歯の本数が少ないことと抑うつ発症の関連性のメカニズムには、多数の要因が関連している可能性があります。例えば、うつの予防には健康的な食事摂取が不可欠であることが先行研究で示されていますが、歯の本数が少ないと健康的な食事習慣を維持することが難しくなります。また、歯の本数が少ないと社会参加や社会的活動が少ないことが報告されていますが、社会とのつながりが少ないことは抑うつに関連します。このように、いくつもの要因を介して、歯の本数の減少が抑うつ発症に影響すると考えられます。

しかし残念ながら、一度失ってしまった歯を取り戻すことはできません。できる限り現在の歯の本数を長く保てるように、口腔内の健康に努めましょう。

できる限り現在の歯の本数を長く保って、心身ともに元気に過ごしましょう!

<コラム担当:丹下 智香子>

リスやウサギの門歯(いわゆる『前歯』)は、ずっと伸び続けるもので、固い木の実などを囓ることにより、適切な長さに保つことができるそうです。逆に、柔らかい餌しか食べないと、歯が伸びすぎて大変なことになるということですね

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*

Chu WM, Nishita Y, Tange C, Zhang S, Furuya K, Shimokata H, Otsuka R, Lee MC, Arai H.
Association of a lesser number of teeth with more risk of developing depressive symptoms among middle-aged and older adults in Japan: A 20-year population-based cohort study.
J Psychosom Res. 2023 Nov;174:111498. doi: 10.1016/j.jpsychores.2023.111498. 

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