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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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補聴器を使用すると認知機能低下を予防できる? 【認知症予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

トピックスNo.33「知的な能力と難聴の関係」このリンクは別ウィンドウで開きますで、難聴があると認知機能の一部である「知識力」と「情報処理のスピード」が低下しやすいことを紹介しました。

難聴があるとコミュニケーションがうまく取れず、もどかしく感じたり、耳学問(みみがくもん)(注)ができない分だけ損をしたり、という問題が生じます。また、言葉を聞いて理解して返事をするという作業は脳のあちこちを使って行われるのですが、難聴があるとそれがスムーズに行われなくなります。近年、難聴は認知症の危険因子として注目されています。それと同時に補聴器の使用が認知機能の低下を抑制できるかどうかも注目されています。

(注)耳学問とは・・・自分で習得した知識ではなく、人から聞きかじった知識のこと

日本は欧米に比べて補聴器の使用割合が少ないことが知られています。図1にNILS-LSA(ニルス・エルエスエー)第7次調査参加者における難聴の程度と補聴器の使用状況を示しますが、生活に支障の出始める中等度難聴者で補聴器を使用している方々は3割未満です。

難聴の程度を軽度難聴、中等度難聴、高度以上に分類し、それぞれのグループで補聴器をよく使用、時々使用、持っているが使用なし、使用なしの割合を示したグラフ。中程度難聴者での補聴器使用は3割未満であることが示されている。

 

図1:難聴の程度と補聴器の使用状況

​そこで今回、NILS-LSAに1回でも参加し、中等度の難聴に該当している約400名の高齢者の方々を対象に、12年間の認知機能の変化に関して解析を行いました。トピックスNo.33「知的な能力と難聴の関係」の研究では難聴があると「知識力」と「情報処理のスピード」が低下しやすいことが示されていましたが、補聴器を使用している人は中等度の難聴がある場合でも「知識力」の低下が抑制されていることがわかりました(図2)。一方、「情報処理のスピード」は補聴器の使用のあるなしに関わらず低下していました(図3)。

補聴器使用ありのグループと補聴器使用なしのグループそれぞれの12年後の知識力得点の変化を示した図。補聴器を使用している人の知識力の低下が抑えられていることが示されている。

図2:補聴器の使用の有無と12年後の「知識力」得点

補聴器使用ありと補聴器使用なしのグループそれぞれの12年後の情報処理スピードの得点の変化を示した図。補聴器の使用有無にかかわらず低下していることが示されている。

図3:補聴器の使用の有無と12年後の「情報処理のスピード」得点

今回の検討では、補聴器の使用そのものが「知識力」に影響するのか、積極的に補聴器を使用する人の特徴として「知識力」が保たれやすいのか、は明らかではありません。しかし、欧米の研究でも難聴のある人が補聴器を使用すると脳の活性が保たれたという報告や、補聴器使用開始前と比べて開始後は記憶スコアが低下しにくくなったという報告などがあります。日常生活に支障が生じるような難聴がある方は補聴器を使用すると、一部の認知機能の低下を抑制すると言えるでしょう。

「聞こえにくい」ということで生活に支障がある場合、補聴器の使用を検討してみてはいかがでしょうか。その際には、ご自身にあった補聴器を見つけるために、専門的な設備や専門知識・技術を持った耳鼻咽喉科医(補聴器相談医)や認定補聴器専門店に相談しましょう。

補聴器の試聴や購入を考える際には、補聴器相談医や認定補聴器専門店に相談しましょう。

 <コラム担当:杉浦 彩子>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*

Sugiura S, Nishita Y, Uchida Y, Shimono M, Suzuki H, Teranishi M, Nakashima T, Tange C, Otsuka R, Ando F, Shimokata H.

Longitudinal associations between hearing aid usage and cognition in community-dwelling Japanese older adults with moderate hearing loss.

PLoS One. 2021 Oct 13;16(10):e0258520. doi: 10.1371/journal.pone.0258520.

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