すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 蓄膿になりやすいのはどういう人?
トピックスNo.30「 耳垢(みみあか)と認知機能の意外な関係」で「耳垢栓塞(じこうせんそく)」という状態になると、耳鼻咽喉科医でないと耳垢を取ることが難しいことや、聞こえにくい状態が認知機能の低下と関連することをお伝えしました。今回は同じく耳鼻咽喉科の病気である「蓄膿(ちくのう)」についてお話しします。
「蓄膿(ちくのう)」とは、鼻の中にある副鼻腔(ふくびくう)という部位が炎症で腫れたり、そこに膿(うみ)がたまったりした状態を指します。医学用語では「副鼻腔炎(ふくびくうえん)」と言います。副鼻腔は、顔の骨の中にある空洞で、図1のように、前頭洞(ぜんとうどう)、篩骨洞(しこつどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、上顎洞(じょうがくどう)の4種類が顔の左右にあります。副鼻腔炎では、通常、頭痛、鼻水、鼻づまりといった症状が出ますが、自覚症状が全くない場合もあります。症状がなければ耳鼻咽喉科を受診して検査することもありませんので、症状のない人も含めて副鼻腔炎のある人がどれぐらいいるのかは、これまでわかっていませんでした。そのため、NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の参加者の方々の副鼻腔の状態を頭部MRIの撮影画像を用いて調査してみました。
図1:副鼻腔の位置
その結果、全体で約7%の方々に副鼻腔炎と考えられる異常陰影を認めました。部位別では、上顎洞(じょうがくどう)、篩骨洞(しこつどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、前頭洞(ぜんとうどう)の順に多く異常を認めました。上顎洞は、最も大きい副鼻腔で、上の歯とも接しており、炎症を起こしやすいとされています。副鼻腔炎という程ではないレベルまで入れると、約4人に1人は、頭部MRIで、上顎洞の粘膜が腫れていたり、そこに液体(膿)がたまっていたりすることが確認されました。副鼻腔炎の重症度別の割合を図2に示します。副鼻腔炎は、全体に男性に多く、軽症の方々がほとんどですが、ほぼ全ての副鼻腔に病変(病気が原因で起こる体の変化のこと)のある重症の方々も、少数ですが男性で3名、女性で2名確認しました。
図2:副鼻腔炎の重症度別の割合
また、どのような方々が副鼻腔炎になりやすいのかを調べたところ、年齢が高い方々、肥満傾向の方々、喫煙歴のある方々、喘息や慢性気管支炎の既往歴のある方々では、そうでない方々よりも副鼻腔炎になりやすいことが明らかとなりました。その中でも、喘息や慢性気管支炎のある方では、2.7倍から3.8倍ほど副鼻腔炎になりやすく、気管の炎症と副鼻腔炎には密接な関連があることが示唆されました。また、耳鼻咽喉科との関連がイメージしにくい肥満ですが、肥満は全身的に炎症を起こしやすいと考えられており、副鼻腔炎でも同様であることが推測されました。
副鼻腔炎になると、完全に治るのに時間がかかります。完治しないとだんだん重症化することがあるため、副鼻腔炎がある方は完全に治るまでしっかり薬を内服することが必要です。また、薬をしっかり内服しても治らない副鼻腔炎の場合、手術加療が望ましい場合もあります。
頭痛、鼻水、鼻づまりのような不快な症状は、日常生活に支障をきたすことがあります。さらに、副鼻腔炎が慢性中耳炎などを引き起こす場合もあり、聴力に影響をおよぼすことが考えられます。トピックスNo.30「 耳垢(みみあか)と認知機能の意外な関係」でもご紹介したように、聴力の低下は認知機能の低下に関連するとも言われています。ただの風邪かな?で済ませずに、心当たりのある方は耳鼻咽喉科で診察を受けましょう。
頭痛や鼻水・鼻づまり・鼻水がのどに落ちてくる、といった症状が長引いている場合は副鼻腔炎の可能性があるため耳鼻咽喉科を受診しましょう。中でも喫煙歴のある方、喘息や慢性気管支炎のある方、肥満のある方は副鼻腔炎になるリスクが高いため早めに診察を受けましょう。
<コラム担当:杉浦 彩子>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*
|
このトピックスに関連する記事もぜひご覧ください。
このトピックスに関連する外来診療科のご案内です。