すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 低栄養を回避する(1) 【低栄養予防】
お腹いっぱいなのに、美味しそうなものを見るとつい食べてしまうことや、逆に、空腹を感じても、面倒だったり忙しかったりすると食べないことはありませんか。このように、私たちの食べる量は、食欲やその時の状況などに左右されていて、体が必要としている量とは必ずしも一致していないことがあります。特に高齢期は、体を動かす機会が減少したり、口腔機能が低下したり、食事の準備が大変になることが多かったりして、本人が気づかないうちに、食事の量が減り、体に必要な栄養を摂取できていない「低栄養」の状態に陥ることがあります。低栄養は、体力の低下などを介して、生活の活動範囲を狭めたり、病気の治療の妨げとなるだけでなく、健康寿命そのものを脅かす場合もあります。そのため、低栄養はできる限り回避することが大切です。
高齢期の低栄養を回避するために、食生活上、心がけたいこととして「食事の量と質を良好に保つこと」が挙げられます。では、「好ましい量と質の食事」はどのような食事と捉えたらよいのでしょうか。今回は「食事の量」に着目して、自分の食事の量が適量かを自分で見積もる方法をご紹介します。
普段、食べている量が適量かを判断する上で最も手軽な方法は、体重測定です。私たちは食事によりエネルギー源を摂取して、それを体内で利用し、体内で利用できなかったエネルギーは脂肪という形で体内に蓄積します。逆に、摂取したエネルギーよりも、体内で利用するエネルギーが多い場合は、体内に蓄積している脂肪や筋肉を分解して、エネルギーとして活用します。つまり、食べる量(エネルギー摂取量)と体内での利用量(エネルギー消費量)が均等であれば体重は維持され、摂取量が消費量を上回れば体重は増加し、下回れば体重は減少します。
ただし、体重が維持されていれば、それだけで食べている量が適量とは言えません。肥満や、やせすぎている場合は、体重を調整する必要があるでしょう。肥満や、やせは、自分の体格指数(Body Mass Index: BMI (kg/m2:1平方メートルあたりのkg)と、健康を維持する上で好ましいと考えられている目標BMI値とを比較することで、おおよそ把握できます。
表1にはBMIの求め方を、表2には「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で目標とされるBMIの範囲を示しました。18歳以上のどの年齢でも目標とするBMIの上限値は24.9kg/m2と一定ですが、BMIの下限値は18歳から49歳よりも50歳から69歳で高く、70歳以上では21.5kg/m2ともっと高い値が推奨されています。つまり高齢者では、やせ、すなわち低栄養リスクの抑制を意識した目標値となっています。
図1:12年間のエネルギー摂取量の経年変化
図2:12年間の体重の経年変化
図1には、NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の縦断調査に参加してくださった40歳以上の男性922名、女性879名の食事調査から算出したエネルギー摂取量の経年変化を、図2には、体重の経年変化を示しました。男女ともに40歳以降、エネルギー摂取量は低下し、特に男性では、高齢期ほどエネルギー摂取量は低下しました。また体重は、男性では53歳頃から、女性では47歳頃から低下傾向を示しました。人によっては加齢とともに体重が増加することや、体重が激しく変動することがありますが、集団として解析すると、全体では加齢とともにエネルギー摂食量も体重も低下傾向を示しました。このことは、中年期から高齢期にかけて、食べる量が少しずつ減り、低栄養のリスクが徐々に高まることを示唆しています。
体重のほんのわずかな増減に一喜一憂する必要はないでしょう。しかし、年代別の目標BMI値から自分の好ましい体重の範囲を知ることと、少なくとも週に1回程度は体重を測定して、体重の変化を把握し、摂食量を見直すことは、低栄養を回避する上でとても大事です。
今回は「食事の量」について考えましたが、次回は「食事の質」について考えます。高齢期にはどんな食材の摂取が少なくなる傾向があるか、またどんな栄養素が不足しがちかについて、NILS-LSAの研究成果をもとにご紹介します。
自分の身長や年齢に応じて、健康上好ましいと考えられている体重の範囲を知りましょう。また週に1回程度の体重測定を習慣にして、その増減から食事の量が適量かを見積もりましょう。
<コラム担当:大塚 礼>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* |
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