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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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食習慣と筋力低下~食事と慢性炎症の観点から~ 【フレイル予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

ペットボトルの蓋が開けにくくなった・・・など、握力の衰えを感じることはありませんか?握力は全身の筋力を反映しているため、それは筋力低下の危険信号かもしれません。

筋力が低いと要介護状態などに陥りやすくなることから、近年、筋力低下を予防することが注目されています。筋力低下の原因はいくつかありますが、その一つに「慢性炎症」が挙げられます。「炎症」とは、体の組織に異常が生じた際に起こる防御的反応です。「慢性炎症」は炎症の中でも緩やかに持続するものを指し、喫煙などの生活習慣、老化した細胞や内臓脂肪の増加、性ホルモン濃度の変化などが原因で引き起こされると考えられています。食事の影響も指摘されており、慢性炎症を起こしやすい食事や、抑制しやすい食事があると考えられています。そこで、NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の第1次調査と、約12年後の第7次調査の両方に参加してくださった方々を対象に、慢性炎症を起こしやすい食事と握力の関連について検討しました。

まず第1次調査時の食事内容をもとに、食事性炎症指数()を算出しました。そして性・年代(40-59歳および60-79歳)別に、食事性炎症指数の低群・中群・高群という3グループに群分けし、グループ間で約12年間での握力の低下量を比較しました。

()食事性炎症指数は、45種類の栄養素や食品の摂取量に基づいて算出するもので、この得点が高いほど炎症を起こしやすい食事、低いほど炎症を抑制しやすい食事であることを表します。

その結果、第1次調査時に40-59歳女性について有意な関連を認め、食事性炎症指数高群(炎症を起こしやすい食事をしていたグループ)は、低群(炎症を抑制しやすい食事をしていたグループ)に比べて、約12年間の握力の低下が大きいことがわかりました(図1)。

低群(炎症を抑制しやすい食事をしていたグループ)、中群、高群(炎症を起こしやすい食事をしていたグループ)別の握力の変化量を示したグラフ。

調整:第1次調査時の年齢、体格指数(BMI)、脂質異常症・糖尿病・虚血性心疾患・高血圧・がん・慢性呼吸不全(COPD)の既往の有無、教育年数、総身体活動量、喫煙状況、就業状況、握力
食事性炎症指数群は性・年代別に三分位で分類しました。

図1:食事性炎症指数群別での12年間の握力の変化量(第1次調査時40-59歳女性)

次に、各グループがどのような食品群を摂取していたかを詳しく調べてみました。食事性炎症指数低群(炎症を抑制しやすい食事をしていたグループ)を基準にした場合に、食事性炎症指数が高くなるほど(炎症を起こしやすい食事をしているグループになるほど)、穀類、菓子類、肉類の摂取量が多く、豆類、種実類、淡色野菜、緑黄色野菜、果実類、魚介類、調味香辛料の摂取量が少ないことがわかりました(図2)。

低群(炎症を抑制しやすい食事をしていたグループ)、中群、高群(炎症を起こしやすい食事をしていたグループ)別に、穀類、芋類、砂糖甘味料、豆類、種実類、淡色野菜、緑黄色野菜、果実類、キノコ類、藻類、魚介類、肉類、卵類、乳類、牛乳・乳製品、菓子類、嗜好飲料類、調味香辛料の摂取量を示した図。

 

図2:食事性炎症指数低群を基準にした際の食品摂取量()(第1次調査時40-59歳女性)
(()摂取エネルギー1000kcalあたり)

​海外の報告においても、野菜、果物、種実類、魚介類を多く食べる食習慣は慢性炎症を抑制しやすいことが報告されています。

トピックスNo.34「握力は活力のバロメーター」でもご紹介したように、筋力は加齢と共に低下するため、筋力を高く維持することが “すこやかな高齢期” を過ごすためにも大切です。筋力の低下を予防するためには、食習慣を見直すことも重要と言えそうです。

特に女性は、慢性炎症を起こしやすい食習慣に気をつけて筋力を維持しましょう

<コラム担当:木下 かほり>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*
木下かほり、大塚礼、丹下智香子、西田裕紀子、富田真紀子、安藤富士子、下方浩史、荒井秀典:
地域在住中高年における食事性炎症指数が握力と歩行速度に及ぼす影響
第61回日本老年医学会学術集会, 2019.

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