すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > 脳の健康を守る運動習慣:歩数だけでなく「強度」にも注目を
健康維持のために「1日5000歩」などの目標を掲げ、ウォーキングを日課にされている方は多いでしょう。しかし、最新の研究から、記憶と深くかかわる脳の部位である「海馬(かいば)」の健康を守るためには、身体活動の質(強度)も重要であることが明らかになりました。
NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の第6次、第7次、第9次調査の全てに参加された方のうち、第6次調査時点で60歳以上、かつ、認知症・脳卒中の既往歴、頭部手術経験のいずれもない方で、解析に使用する項目が揃った551名(男性287名、女性264名)の方について、日常の身体活動と海馬容積の10年間の変化との関連について検討しました。海馬容積は、脳のMRI画像をもとに算出しました。身体活動は、参加者に7日間装着していただいた活動量計のデータを用いて評価しました。本研究の新しい点は、身体活動の「質」に着目し、簡単な家事やぶらぶら歩き程度の「低強度」の活動と、早歩きなど息が少し弾む程度の「中・高強度」の活動に分けたことです。分析では、「低強度」と「中・高強度」のそれぞれについて、1日あたりの活動時間を3群(短い群・中程度の群・長い群)に分けて検討しました。
解析の結果、男性において「中・高強度」の活動をある程度行っている場合に、統計的に有意に10年間の海馬の萎縮が抑えられていました。具体的には、「中・高強度」の活動時間が短い群 (16.0分/日以下)で最も大きく海馬容積が減少しており(年間約72mm³)、活動時間が中程度の群(16.1から34.8分/日)と長い群(34.9分/日以上)ではその減少が少なく抑えられていました(年間約58から59mm³)(図左)。この傾向は、特に、道順や現在地を把握する際に必要な「空間ナビゲーション機能」を司ると考えられている「右側の海馬」で見られました(図右)。一方で、歩数や「低強度」の活動時間に関しては、海馬の萎縮との間に明確な関連が示されませんでした。

図 「中・高強度」の身体活動時間と海馬容積の年間変化量との関連(男性)
女性では、いずれの身体活動の指標でも海馬の萎縮と明確な関連が見られませんでした。女性の場合は、家事などのため低強度の身体活動時間が相対的に長いことや、性ホルモンなど脳の変化に影響する生物学的要因が男性と異なることから、今回の解析では運動の効果が表れにくかった可能性があります。
身体活動が海馬の萎縮を防ぐメカニズムについては、更なる研究が必要ではありますが、この研究では、脳の健康を保つには「やや強めの身体活動」が重要であることが示されました。「たくさん歩くこと(量)」が身体の健康や脳全体の萎縮予防に有効であることは知られていますが、身体を動かす際には「質の高い動きをすること(強度)」も意識するとよいようです。健康効果を得られる強度の目安は、隣の人と会話ができるくらいの余裕をもって続けられる、「ややきつい」と感じる直前程度の運動強度(ニコニコペース)です。散歩の際は、少し息が弾む程度の早歩き“ニコニコペース”を取り入れてみましょう。
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脳の健康を維持するために、ニコニコペースでメリハリのある運動習慣を心がけましょう。
<コラム担当:幸篤武>
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*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* Yuki A, Nishita Y, Nakamura A, Kato T, Tange C, Zhang S, Ando F, Shimokata H, Otsuka R.Longitudinal relationships between daily activity and hippocampal atrophy in Japanese dwellers.J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2025 Jul 24;80(8):glaf155. doi: 10.1093/gerona/glaf155. |