膝関節の痛みは生活に支障を来して外出する意欲をなくしがちです。
原因になる疾患としては変形性膝関節症、偽痛風、痛風、関節リウマチが主にあげられます。
変形性膝関節症とは、膝の関節の軟骨の質が低下し、少しずつすり減り、歩行や立ち上がる時に膝の痛みが出現する病気です。平地での歩行は大丈夫でも、階段で膝が痛いために困っている、歩行時の膝の痛みはないけれど、正座は膝が痛くてできない、などが初期の症状です。さらに変形性膝関節症が進むと、次第にO脚が進んでいき、階段のみでなく平地での歩行にも支障をきたすようになります。
図 変形性膝関節症の進行 自験例
原因としては加齢によるもの、けがによるものがあり軟骨がある程度以上、すり減ってしまうと回復が難しくなります。関節軟骨のすり減り具合は、立位でのレントゲン検査やMRI検査で評価可能です。
ヒアルロン酸関節内注射、運動療法、体重コントロール、鎮痛剤が有効です。
関節変形が進行してこれらの方法では改善が見られない場合は、人工関節手術を行う場合があります。痛みを我慢して筋力低下が進行してしまうと手術をしても十分な歩行能力が得られない事かあるため、適切なタイミングでの手術が必要となります。
急に膝がはれて、熱を持つなどして痛くなった場合は、偽痛風、痛風、化膿性膝関節炎といった病気を考えます。
一番多いのは偽痛風です。関節内にピロリン酸カルシウムという結晶が沈着して起こるもので、加齢と脱水などが原因と言われています。関節液を採取して、調べて結晶が確認できると診断が確定します。治療は消炎鎮痛剤が用いられます。
尿酸値が高い場合、尿酸ナトリウムの結晶が関節内にたまると起こる痛風発作が起こります。初期治療は消炎鎮痛剤を用い、痛み、腫れがおちついた後は尿酸を下げる薬を内服して再発予防をする必要があります。
化膿性膝関節炎は、歯周病や感染性心内膜炎などといった他の場所で感染した細菌が血流に乗って膝に到達することで起こります。治療が遅れると、全身に菌が回り命に関わる事もあります。また、関節内に細菌が入った場合、速やかに洗浄、抗生剤治療などを行わないと関節軟骨がとけてしまいます。骨髄炎を起こしてしまうと治りが非常にわるいため、熱があって膝が腫れて痛い場合は速やかに医療機関を受診してください。
関節リウマチは近年高齢者でも発症することが増えてきました。手だけでなく、膝が腫れることもあり、特に高齢者で膝が痛くなった時には筋力の衰えが進行し、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルなど、加齢に伴って起こりやすくなる問題が起こり、そのまま放置すると介護が必要な状況に達することもあります。
自己免疫や、加齢によって起こる免疫システムの異常が原因と言われており、早期診断、早期治療が重要です。
近年、生物学的製剤、分子標的薬といった新しい薬剤が使えるようになったため、関節の痛みがなく、ADLを保って生活できる寛解という状態を維持しやすくなってきました。
一般名 | 標的 | 有効性 | 安全性 | 継続性 | MTX併用 | |
---|---|---|---|---|---|---|
エタネルセプト | 受容体融合蛋白 | TNF-α,LT-α | 優 | 良 | 良 | 推奨 |
アダリムマブ | 完全ヒト型抗体 | TNF-α | 優 | 普通 | 良 | 推奨 |
ゴリムマブ | 完全ヒト型抗体 | TNF-α | 優 | 普通 | 優 | 推奨 |
インフリキシマブ | キメラ抗体 | TNF-α | 優 | 普通 | 良 | 必須 |
セルトリズマブ ペゴル |
完全ヒト型抗体Fab PEG付加 |
TNF-α | 優 | 普通 | 良 | 推奨 |
トシリズマブ |
完全ヒト型抗体 | IL-6受容体 | 優 | 普通 | 良 | 不要 |
サリルマブ | 完全ヒト型抗体 | IL-6受容体 | 優 | 普通 | 良 | 不要 |
アバタセプト | 受容体融合蛋白 | CD80/86 | 優 | 良 | 良 | 推奨 |
トファチチニブ | 小分子 | JAK | 優 | 不明 | 良 | 推奨 |
バリシチニブ | 小分子 | JAK | 優 | 不明 | 不明 | 推奨 |
ペフィニシチブ | 小分子 | JAK | 優 | 不明 | 不明 | 推奨 |
ウパダシチニブ | 小分子 | JAK | 優 | 不明 | 不明 | 推奨 |
フィルゴチニブ | 小分子 | JAK | 優 | 不明 | 不明 | 推奨 |
レントゲン検査、採血検査、関節エコー検査などで診断が可能となります。
関節リウマチにおいても変形が進行した場合は人工関節手術が必要となります。
膝の痛みといっても原因は様々です。整形外科を受診していただけますと適切な検査を行い、個々人に応じた治療が行えます。