当院を受診される高齢の患者さんが心配される症状の一つに「もの忘れ」があります。「もの忘れ」が「認知症」の診断に直結する訳ではありませんので、過度な心配は不要ですが、「もの忘れ」をきっかけに認知症と診断される患者さんもいらっしゃいます。そのため、「もの忘れ」が気になっている人は、日常生活を健やかに過ごすためにも、きちんと検査を受けていただくことが重要です。今回は、「もの忘れ」や「認知症」について、最近の医療業界で話題になっている情報をお知らせいたします。
「もの忘れ」には、以下の段階があります。
特に、2.軽度認知障害はMCI(mild cognitive impairment)1)ともいい、認知症の前段階という注意が必要な状態です。認知症を予防したいと考えた場合、MCIをなるべく早期に発見して対策を講じる、が重要になります。MCIは以下の基準で判断されます。
(出典:Petersen RC, et al. Arch Neurol. 2001)
MCIを認知症に悪化させないよう、以下の点に注意が必要と考えられています。
難聴があると、他者とコミュニケーションがとりにくいと感じることがあるかもしれません。会話がうまくつながらないことから、患者さんが閉じこもりがちになることもあります。最近の海外での研究成果からは、中年期に難聴があると高齢期に認知症のリスクがおよそ2倍上昇するというデータが発表されています(下図2))。また、補聴器を適切に用いることで、認知症の発症リスクが軽減するという海外からの報告もあります。
私達は、難聴と認知症についての研究グループを立ち上げ、いくつか調査しました。これまでの研究成果をまとめると、難聴がある患者さんでは、もの忘れの自覚や不安感、焦燥などの精神的な症状を感じる割合が多く、抑うつ気分がある患者さんもいらっしゃいました。また、難聴は高齢の患者さんの日常生活動作や生活の質(QOL)にも関係していました。
そこで、私達は、「聞こえにくさ」と「もの忘れ」がある患者さんを対象に、聴力や認知機能をきちんと検査した上で、基準に合う方に補聴器をお試しでお使いいただくサービスを臨床研究として運営しています。もの忘れ外来では2020年5月末まで患者さんのご予約を受け付け、たくさんの患者さんからお問合せをいただき、研究にご参加いただきました。詳しい情報をご希望される方は、お気軽にもの忘れ外来、または研究事務局までお問い合わせください。
図1(出典:Livingston G, et al. Lancet. 2017)
図2
1〜4を満たす⽅を募集します。
*スタディパートナーとは、ご本⼈の⽣活状況などに関する情報をお知らせいだたく⽅です。(ご兄弟やご親族なども可能です)
No.33 知的な能力と難聴の関係(すこやかな高齢期をめざして~ワンポイントアドバイス~)
No.43 難聴と「人とのかかわり」について(すこやかな高齢期をめざして~ワンポイントアドバイス~)
国⽴⻑寿医療研究センター もの忘れセンター
Escargot(エスカルゴ研究)研究事務局
もの忘れセンター 佐治直樹