すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
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わが国で失明の原因となっている眼疾患の1位は緑内障です。日本人の一般住民を対象とする疫学調査では、60歳以上の約10%が緑内障を患っていると推計されており、年代別にみると60歳代では6%、70歳代では10%、80歳以上では16%程度と年齢が上がるにつれ、その有病率が高くなります。緑内障は、視神経が痩せて、視野が狭くなっていく病気です(図1)。視神経は神経組織であり、現在の医療技術では、一旦障害を受けた神経組織を回復させることができません。そのため緑内障は、早期発見により、障害が進行する前に治療を開始することが重要です。
図1:緑内障により視野が狭くなっていく様子
眼圧が高いと視神経に悪影響を及ぼすため、緑内障では点眼薬を使って眼圧を下げる治療法が選択されます。しかしながら、日本人では緑内障に罹患していても眼圧が正常な方々が過半数を占めることが分かっており、緑内障に関わる要因については、多角的な検討が必要です。
そこで今回は脳画像に着目し、緑内障の指標となる眼神経乳頭の凹みの程度(視神経乳頭陥凹)と、脳内のさまざまな領域における脳梗塞病変(頭部MRI検査により判定)との関連について、NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)第3次調査に参加された2,241名を対象に検討しました。
その結果、緑内障に関連する様々な要因を考慮しても、眼神経乳頭の凹みが大きいことは、脳の「大脳基底核(だいのうきていかく)」という部位における病変の進行と関連していました。大脳基底核(図2)は運動、認知、情動などのさまざまな機能に関与する脳の重要な領域であり、その障害により、パーキンソン様症状(動作の鈍り、筋肉のこわばりなど)、抑うつ、低体重(痩せ)などと関連があることが指摘されています。
図2:大脳基底核
トピックスNo.22「痩せすぎは緑内障に注意?」では、緑内障リスクの指標である眼神経乳頭の凹みが「痩せ」と関連する可能性を報告しましたが、今回、痩せだけでなく、脳の病変とも関連があることが示されました。
本研究の結果は、緑内障の発症・進行を予防するためには、眼圧を下げることだけでなく、大脳基底核病変を予防することも重要である可能性を示しています。眼圧が下がっても緑内障が進行する場合や、元々正常な眼圧を伴う緑内障の方々は定期的に脳ドックを受診して脳の状態を観察するなど、治療選択を考える上で有益な知見といえます。
緑内障は、加齢に伴う眼の衰え(アイフレイル)の一つです。中高年期には、定期的に眼科を受診しましょう。
<コラム担当:福岡 秀記>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* Fukuoka H, Nishita Y, Tange C, Otsuka R, Ando F, Shimokata H. |
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