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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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良い生活習慣と脳の老化【脳老化予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

脳は私たちの生命活動をコントロールする司令塔です。成人の脳は1,400g程度の重さで、その表面は神経細胞が密集する灰白質(かいはくしつ)で覆われています。年をとるにつれて脳は老化し、脳の神経細胞が収縮したり失われたりして灰白質の体積は小さくなる傾向にあります。小さくなりすぎると判断力や記憶力が低下し、日常生活に支障をきたすことがあります。今回は、この灰白質の体積に注目し、どのような生活習慣が脳の老化を抑えるかについて、ご紹介します。

 

NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)第6次と第7次調査の両方に参加してくださった地域住民1,665名(40歳から87歳)の方々を対象に、第6次調査の生活習慣と、第6次から第7次調査での2年間の灰白質体積注)の変化との関連性を縦断的に検討しました。

注)NILS-LSAでは頭部MRI(磁気共鳴画像診断)3次元画像を用いて、脳の灰白質の体積を算出しています。

検討した生活習慣は食事運動睡眠飲酒喫煙社会参加の6つで、表に示した基準により、良い生活習慣をいくつ持っているかを調べました(得点範囲:0から6点)。

表.本研究で評価した6つの生活習慣

  健康上、好ましいと考えられる習慣(各1点) 健康上、好ましくないと考えられる習慣(各0点)
食事習慣注1 いろいろな食品を食べている いろいろな食品を食べていない
運動量注2 多い 中等度、または少ない
睡眠時間注3 中等度 短時間、または長時間
飲酒習慣注4 1日あたり純アルコール20g未満 1日あたり純アルコール20g以上
喫煙習慣 吸ったことがない、または禁煙した 現在喫煙している
社会参加 就労あるいは社会的活動 あり 就労、社会的活動 ともになし
  • 注1 食多様性スコア 「Quantitative Index for Dietary Diversity」という指標を用い、「いろいろな食品を食べているか」を評価しました。いろいろな食品を食べている程、食多様性スコアが高くなります。
  • 注2 男性は「1日あたり34.5メッツ・時以上」、女性は「1日あたり36.4メッツ・時以上」を、運動量が多いとしました。メッツ(「Metabolic equivalents」の略)は、身体活動の強さを示し、活動または運動時に安静状態の何倍の代謝(カロリー消費)をしているかを表します。
  • 注3 男性は「6.8時間から7.7時間未満」、女性は「6.4時間から7.5時間未満」を、中等度の睡眠時間としました。
  • 注4「健康日本21」では1日あたり純アルコール20g程度までが推奨されています。(目安量:ビール(アルコール度数5%)500ml、日本酒1合(180ml)など)。

その結果、脳の灰白質体積の萎縮は、良い生活習慣が1つ増えるごとに、2年間で100から200㎣(立方ミリメートル)ずつ抑えられることが分かりました。男女別に検討すると、男性では(現在)たばこを吸わないことや、就労を含む社会参加があること、女性では、いろいろな食品を食べていることが萎縮の抑制と関連していました。

この研究では、良い生活習慣の保持数が多ければ多いほど灰白質の萎縮が抑えられており、全ての生活習慣を良いものにするのは難しくても、今よりひとつでも良い生活習慣を増やすことが、将来の灰白質の萎縮を防ぐことを示しています。

加齢に伴う灰白質の萎縮を完全に止めることは難しくても、生活習慣を良いものにすることで、その萎縮のスピードが緩やかになれば、より長く若々しい脳を保つことができます。どれから始めて良いか分からない場合、男性では禁煙すること、就労や地域活動などの社会参加をすること、女性ではバランスの良い食事を心がけることがそれぞれ脳の老化予防と強く関連していたため、この3点からひとつ、選んでみてはいかがでしょうか。

 

できそうな良い習慣をひとつでも選んで実行し、脳の老化スピードを緩やかにしていきましょう。

 

 

<コラム担当:大塚 礼>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*

Rei Otsuka, Yukiko Nishita, Akinori Nakamura, Takashi Kato, Fujiko Ando, Hiroshi Shimokata, Hidenori Arai

Basic lifestyle habits and volume change in total gray matter among community dwelling middle-aged and older Japanese adults.

Prev Med. 2022;161:107149.

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