すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
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健康のために「いろいろなものを食べてバランスのとれた食事をしましょう」と言われます。
これまで皆さんにご紹介してきたように、NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)の研究からは魚油に多く含まれるDHA(トピックスNo.18 「食事と認知機能(1)」参照)や牛乳乳製品の摂取(トピックスNo.21 「食事と認知機能(2)」参照)は認知機能低下を抑制する可能性があること、その一方で、副菜(おかず)が少ない穀類中心の食事をとる傾向にある方では認知機能低下のリスクが上昇していることが示されてきました。
しかし、「いろいろなものを食べる」ことの健康効果を科学的に検証した報告は、実は少ないのが現状です。今回は「いろいろな食品を食べること(食品摂取の多様性)」に着目し、認知機能(考える、記憶する、判断するなどの知的な能力)との関連をご紹介します。
NILS-LSAでは地域在住の60歳以上の方々を対象に、食品摂取の多様性と認知機能との関連を、第2次調査(2000年から2002年)から第7次調査(2010年から2012年)の縦断(経時)データを用いて検討しました。食品摂取の多様性は、3日間の食事の内容を計量して記録していただく食事秤量記録調査(しょくじひょうりょうきろくちょうさ)をもとに、食品摂取の多様性指標(Quantitative Index for Dietary Diversity)でスコア化しました。認知機能はMMSE(Mini-Mental State Examination)という検査で判定しました。
その結果、図に示すように、食品摂取の多様性が最も低い(いろいろな食品を食べていない)グループに比べ、最も高い(いろいろな食品を食べている)グループでは、認知機能低下のしやすさの指標が44%低下していました。つまり、いろいろな食品を食べている人は、様々な要因を考慮しても、認知機能が低下しにくいという結果でした。
図:食品摂取の多様性と認知機能低下の関連
*横軸は、食品摂取の多様性指標(Quantitative Index for Dietary Diversity)のスコアをもとにしている
*性、年齢、追跡期間、ベースラインの認知機能、BMI、世帯収入、喫煙習慣、エネルギー摂取量、教育歴、病歴(心臓病、脳血管
疾患、高血圧、脂質異常)で調整して解析した結果である
なぜ、食品摂取の多様性が高い人が認知機能の低下が抑制されていたのでしょうか。実際のデータを詳しくみてみると、食品摂取の多様性が高い人は低い人に比べ、たんぱく質や脂質、ビタミン類、微量栄養素など実に様々な栄養素の摂取量が高く、恐らくこれらの栄養が脳の機能維持に良い効果をもたらしたと考えられます。また、データでは確認できませんが、食品摂取の多様性が高い食事をとるためには、様々な食材を手に入れること、献立を考えること、作ることなど、脳だけでなく体も動かす必要があります。このような食行動が脳の機能維持に貢献したとも考えられます。
一人で食事をする機会が増えたり、買い物に行くのが億劫になってくると、どうしても適当な食事で済ましてしまおう、と思ってしまいがちです。でも、手をかけた食事は私たちの目を楽しませるだけでなく、心も体も豊にしてくれます。最近、おかずの少ない食事ばかりかもしれない、と思う方は、是非おいしそうな季節の食材を見つけて、一品食卓に足してみてください。
いろいろな食品を食べて、認知機能の低下を予防しましょう
<コラム担当:大塚 礼>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* |
『食事と認知機能』【認知症予防】シリーズをぜひご覧ください。
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