角膜は5つの層からなり透明で眼球の形を保ち、光を取り込む役目を果たしています。角膜移植の手術方法はいくつかあります。 大きく分けて角膜の中心部分(全層)を丸く切り抜いて入れ替える全層角膜移植と、角膜の一部分だけを移植する角膜パーツ移植とがあります。角膜パーツ移植は、レーザーで角膜の一部を正確に切開することが可能となり実現できるようになったもので、角膜の一部のみの移植のため拒絶反応が起こりにくいメリットがあります。角膜パーツ移植には、角膜の外側の層のみ入れ替える表層角膜移植や深層層状角膜移植、角膜の内側のみ入れ替える角膜内皮移植、角膜周辺部のみを移植する輪部移植などがあります。移植する角膜は、これまではドナー角膜が主流でしたが、ドナー不足や拒絶反応などの問題がありました。そこで近年では移植後の傷の経過や拒絶反応を考えて母体の中で赤ちゃんを包んでいた組織(羊膜)を使用した羊膜移植や、ドナーの角膜組織を培養し移植するヒト角膜内皮細胞移植、また患者様ご自身の口腔粘膜上皮細胞を培養し作られた自家培養口腔粘膜上皮細胞シート(商品名:オキュラル、サクラシー)を用いた移植など多くの選択肢が広がってきています。当施設では角膜の状態を最新機器で検査把握し、患者様が低リスクで術後良好な経過を維持できるように、これら先進的移植手術に取り組んでいます。令和4年度角膜移植術実績:41件
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特徴 |
適応疾患 |
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全層角膜移植術(PKP) |
角膜の全層(上皮層、実質層、内皮層)を取り換えるがあります。 |
水疱性角膜症、角膜瘢痕、円錐角膜、角膜混濁、角膜ジストロフィー、角膜ヘルペス、化学外傷、再移植など
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表層角膜移植術(LKP) |
角膜の上皮層、実質層のみを取り換える手術のことです。角膜の濁りが表面だけの場合などに選択されます。角膜内皮層は残せるため、メリットとして拒絶反応の可能性を低減することができます。 |
角膜混濁、角膜潰瘍、眼類天疱瘡、デルモイドなど
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深層層状角膜移植術(DALK) |
表層角膜移植の一種で、患部が実質層全体に広がり、また内皮細胞密度が十分にある場合に選択されます。メリットは、表層移植と同じで、患者様ご自身の内皮細胞が残せるために拒絶反応を起こしにくくなる点です。ただし、内皮層ぎりぎりを剥離する必要があり、難しい手術と言えます。 |
角膜混濁、円錐角膜、ジストロフィーなど
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角膜輪部移植(LT) |
角膜上皮層は、病原体から角膜を守るという意味でとても大切なものです。角膜の上皮細胞は、角膜輪部から供給されるため、輪部機能不全に陥った場合、提供角膜の輪部を移植する必要があります。 |
輪部機能不全、化学外傷、スティーブンス・ジョンソン症候群など
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角膜内皮移植(DSAEK/DMEK) |
水疱性角膜症等の内皮層のみを取り換える手術です。角膜周辺部にあけた数ミリの切開創から内皮層を取り除き、ドナー角膜の内皮層を移植する方法です。深層実質の一部と内皮層を移植する方法をDSAEK、内皮層のみを移植する方法をDMEKといいます。 |
水疱性角膜症、内皮機能不全など
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羊膜とは、胎盤組織の一部で、赤ちゃんを包んでいる薄い膜です。この羊膜を眼の表面の疾患の治療に用いることが、ここ10年ほど注目されています。羊膜には、瘢痕形成を抑え、組織修復の促進、炎症を抑える、などの働きがあることが分かっています。羊膜移植は、スティーブンス・ジョンソン症候群、化学傷など、眼の表面がかさぶたのような瘢痕組織(はんこんそしき)で覆われてしまう「瘢痕性角結膜症」や結膜の組織が角膜内に侵入する「翼状片」、および角膜や結膜の傷が治らない「上皮欠損」や「潰瘍」に対して行われます。羊膜移植は、上記の疾患に対し単独、あるいは輪部移植や角膜移植と組み合わせて行われます。羊膜は、帝王切開の際に妊婦の同意を得て頂き、洗浄・保存したものを用います。提供していただく妊婦の方は、肝炎などのウイルスに罹患していない方に限っています。また、羊膜は移植された後に拒絶反応を起こすことがほとんどない組織として知られており、実際的にもこれまで移植後に拒絶反応を起こした例はありません。
培養角膜上皮移植は、患者様ご自身の角膜輪部組織から分離した細胞を培養して製造する角膜上皮細胞シートを移植するもので、採取する傷も小さく、またご自身の細胞であることから免疫抑制を必要としないため低リスクの手術です。当施設ではニデック社のネピックを使用しています。
培養口腔粘膜上皮移植は、患者様ご自身の口腔粘膜組織を採取し、分離した細胞を培養して作成した口腔粘膜上皮細胞シートを移植するもので、両眼の角膜が広範囲に障害を受けられている患者様に対する新たな治療法とされています。当施設では、ニデック社のオキュラル、ひろさきLI社のサクラシーを使用しています。

新しい再生医療等製品を用いた水疱性角膜症の治療法である培養ヒト角膜内皮細胞注入療法ネルテペンドセルが承認(承認2023年3月17日)され2024年9月1日に保険収載されました。当院は臨床治験時より開発に協力してまいりましたが、この再生医療等製品を安全・適正に使用できるよう準備を進め、本年度の治療を8月から実施しています。
目の表面は「角膜」と呼ばれる透明な膜でおおわれています。この角膜がむくんで水ぶくれのような状態になり、視力が低下したり、目が痛んだりする病気を「水疱性角膜症(すいほうせい かくまくしょう)」といいます。この病気は、白内障手術のあとや、角膜内皮という細胞が少なくなることで起こります。進行すると目のかすみやまぶしさ、痛みなどのつらい症状が続き、日常生活にも支障をきたすことがあります。
これまでの視力改善の治療法は、角膜内皮移植や全層角膜移植がありました。
これに比べてネルテペンドセルは、角膜のむくみを改善するために必要な角膜内皮細胞を培養して増やした細胞を補うことにより機能の回復を目指す製品でより低リスクな治療法となります。
昨年度から保険診療として承認されております。
水疱性角膜症と診断され治療が必要な方、治療の適応や詳しく話を聞いてみたい方は眼科を受診してご相談ください。
対象:水疱性角膜症や移植後機能不全による視力低下のある方
感覚器センターの初診外来を予約・受診していただきます(紹介状・診療情報提供書を持参していただくことをお勧めします)。
手術適応に一致するか視力や角膜の状態を検査させていただきます。術後に3時間うつむき姿勢が取れる必要があります。
手術は局所麻酔で実施します。術後に細胞接着のため3時間うつむき姿勢を取ります。約1~2週間の入院治療を行い、約1~2か月で視力回復が得られます。

手術は保険診療として算定いたします。高額医療(注1)の対象になります。
注1:対象者の診療行為や所得によって負担上限額が変わりますのでご注意ください。
お問い合わせは眼科外来までお願いいたします。
緑内障は視細胞と網膜神経線維がすり減って視野狭窄が生じる病気です。
緑内障による視神経の障害は、目の硬さである眼圧が、その人の耐えられる眼圧より上昇することによって引き起こされます。眼圧が上昇する原因により種類が分かれます。
房水の産生を抑える効果がある薬や、房水の流出を促す効果がある薬を点眼して、眼圧を低下させます。もともと眼圧が高くない人でも、眼圧を下げることによって、病気の進行を抑えることができます。点眼薬を使っても、視野の欠損が進行する場合には、外科的治療を行います。レーザーを房水が排出される部分(線維柱帯)に照射し、房水の流出を促進する「レーザー療法」や、手術で線維柱帯の一部を取り除いて房水の逃げ道をつくる「線維柱帯切除術」などがあります。緑内障により一度失った視野は元には戻らないため根気よく治療を続けていくことが大切です。また自覚症状の出る前に発見することが重要です。
当施設では光干渉断層計(OCT)にて網膜神経線維を測定することにより、視野狭窄が生じる前の緑内障初期の段階で緑内障の進行度合いを判定することができ早い段階で点眼等の治療に入ることができます。

網膜の中心部の視細胞が集まる「黄斑」に異常が生じ、ものが歪んで見えたり、はっきり見えなくなったりし、失明に至ることもあります。加齢により委縮する委縮型加齢黄斑変性と、黄斑部に異常な新しい血管が生え、その血管から血液や滲出液が漏れる滲出型加齢黄斑変性との2つの種類があります。日本人の加齢黄斑変性の患者さんのほとんどは滲出型加齢黄斑変性です。滲出型加齢黄斑変性の治療として、異常な新しい血管を生み出してしまう血管内皮増殖因子(VEGF)というタンパク質の発生を抑える薬を直接目に注射する抗血管新生療法(抗VEGF療法)があります。入院の必要はなく、外来通院で受けられます。
白内障はカメラのレンズと同じ役割をしている水晶体が白っぽく濁ってしまう病気です。白く濁ることで正しい映像が目の網膜に伝わらず視力が低下してしまいます。手術内容は濁った水晶体を一度取り除き代わりに人工の水晶体を挿入していきます。最終的にはレンズを入れ替えることで視力が復調し、モノが見える状態になります。
通常の白内障手術(単焦点眼内レンズ)は、ピントが合うのは1点ですので、遠くもしくは近くを選択します。多焦点眼内レンズは、目の状態やライフスタイルによって「遠くと近く」「遠くと中間」「遠くと中間と近く」に焦点を合わせるレンズがあり、眼鏡のわずらわしさから解放されることが可能です。
選定療養とは追加費用をご負担されることで、保険適用外の治療を保険適用の治療と合わせて受けることができる制度です。手術自体は通常の単焦点眼内レンズと変わらず保険適応となり、多焦点眼内レンズを選択することで増えるレンズの差額分のみを自費にてお支払い頂くことで、従来全額自己負担であった多焦点眼内レンズ手術の費用負担を軽減した形で手術を受けられるようになりました。当センターでも多焦点眼内レンズを取り扱っておりますのでお気軽にお声かけください。
翼状片は結膜(白目の部分)の下の細胞が異常に増殖して、角膜(黒目の部分)へ入り込んでくる病気です。黒目の左右にある白い部分が黒目の中心に向かって三角形状に伸びてきます。翼状片は、通常鼻側から角膜中央部に向かって侵入します。翼状片が中央へ進むにつれ角膜が引っ張られるため乱視が出現します。乱視がひどくなった場合や、翼状片が大きくなり黒目の中央にまで進行した場合は視力が非常に低下します。このような場合は翼状片を切除し再発防止のため自分の正常な部分の結膜を移植する手術を行います。また再発を更に予防する方法として、手術中にマイトマイシンCという増殖抑制薬剤を使用したり、再発翼状片では羊膜移植を併用します。
| 月曜日 | 火曜日 | 水曜日 | 木曜日 | 金曜日 | |
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眼科 |
大久保 岡田 馬嶋 |
岡田 高津 甘利 |
稲冨(第3週休診) 馬嶋 高津(奇数週) 大久保(偶数週) 森(緑内障月1回) |
稲冨 岡田 馬嶋 |
高津 大久保 滝 |
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緑内障外来 ロービジョン |
網膜外来 コンタクトレンズ外来 (第1週) |
角膜外来 |
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| 氏名 |
稲冨勉(いなとみ つとむ) |
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|---|---|---|
| 職名 |
感覚器センター長 眼科部長 |
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| 所属学会 資格等 |
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| 氏名 |
髙津央子(たかつ ひろこ) |
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|---|---|---|
| 職名 |
眼科医師 |
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| 所属学会 資格等 |
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| 氏名 |
岡田陽(おかだ よう) |
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|---|---|---|
| 職名 |
眼科医師 |
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| 所属学会 資格等 |
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| 氏名 |
馬嶋 藍(まじま あい) |
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|---|---|---|
| 職名 |
眼科医師 |
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| 所属学会 資格等 |
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| 氏名 |
大久保寛(おおくぼ ひろし) |
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|---|---|---|
| 職名 |
眼科医師 |
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| 所属学会 資格等 |
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