すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~
ホーム > 研究所 > すこやかな高齢期をめざして > パーソナリティと認知機能 ~誠実性の強み~ 【認知症予防】
人の心理や行動には、その人特有の傾向があります。例えば、同じ年齢や性別でも、ものごとの捉え方や人との関係の取り方などはとても多様です。心理学では、このような個性、いわゆるその人らしさのことをパーソナリティ(性格や人格とも言います)と呼んでいます。
パーソナリティは、図1に示す5つの特性からなります。「神経症傾向」は不安や緊張の強さを表します。「外向性」は社交性や活動性を表します。「開放性」は好奇心の強さや想像力の豊かさを表します。「調和性」は共感性や優しさを表します。そして「誠実性」は真面目さや責任感の強さを表します。パーソナリティの理論では、私たちは誰もがこれらの5つの特性をもっていて、その高さや低さがその人らしさを規定していると考えます。
最近、パーソナリティが高齢期の認知機能の状態と関わっていることが分かってきました。ひとつの研究をご紹介しましょう。NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)では60歳以上の方々を対象として、パーソナリティと認知機能の変化との関連について、第2次調査から第7次調査までの約10年間の縦断データを用いて検討しました。その際、もともと(第2次調査の時点で)認知機能が高かったグループと、もともと認知機能が少し低下していたグループに分けて分析を行っています注)。
注)認知機能の判定には、MMSE(Mini-Mental State Examination)という検査を用いました。もともと認知機能が高かったグループとは、第2次調査の時点でMMSE得点が30点満点中28点以上、もともと認知機能が少し低下していたグループはMMSE得点が24~27点だった方々です。
その結果、もともと認知機能が高かったグループでは、「開放性」の高さがその後の認知機能の維持と関連していました。好奇心の強さは、高齢になっても認知機能を高く維持し続けるために重要であると考えられます。この結果は、トピックスNo.12「好奇心旺盛に過ごすことの重要性」とも関連しており、予想したとおりでした。
一方、もともと認知機能が少し低下していたグループでは、「誠実性」がその後の認知機能の維持と関連していました(図2に示します)。すなわち、認知機能が少し低下して、記憶したり、ぱっと計算したりすることがやや難しくなった場合には、真面目さや責任感の強さが、更なる認知機能の低下(ひいては認知症)を阻止する可能性があるという結果でした。
図2: 誠実性が高いほど、認知機能低下のリスクが抑制される(=認知機能を維持できる)
※第2次調査の時点で少し認知機能が低下した(24≤MMSE≤27)高齢者273名を対象とした。
※各パーソナリティ得点が1標準偏差(SD)増えるごとのその後の認知機能低下(MMSE≤23)リスクを計算した。
※ベースライン年齢、性、追跡年数、ベースラインのMMSE、教育年数、婚姻状況、就労状況、喫煙、抑うつ、身体活動量、BMI、血圧、グルコース、HDLコレステロール、トリグリセリドを調整した一般化推定方程式を用いた。
これまでに、「誠実性」の高い人は、病気になったときに医師のアドバイスによく従ったり、薬を忘れず飲み続けたりできること、あるいは、栄養バランスの取れた食生活や適度な運動などの健康行動を行っていることが報告されています。高齢になり、身体面や認知面の機能が少しずつ低下してきたときにこそ、このような誠実性の特性が活かされると考えられます。
人の性格などそうは変わらないから・・・と思われるかもしれません。しかしながら、最近の研究では、パーソナリティは何らかの出来事をきっかけに、また、ご本人の心がけ次第で、高齢になっても変化することが指摘されています。ご自身の真面目さや責任感の強さについて、一度、見直してみませんか?
より良い加齢を目指して、誠実性を大切にしましょう!
<コラム担当:西田 裕紀子>
*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています* |
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