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認知症の危険因子と運動による予防

 2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると推測されています。最近、認知症の主要な原因となるアルツハイマー病の治療薬として「レカネマブ」が承認されました。この薬を利用できるのは軽度認知障害や軽度の認知症の患者に限られますが、認知機能障害の悪化が18ヶ月で27.1%抑制されたことが報告されています。今後、更なる研究によって、より効果のある治療薬が期待されますが、それらの開発にはさらに時間がかかります。現状私たちができることは、日常生活でいかに認知症のリスクを低減させるかが重要となってきます。

認知症の危険因子

 認知症のリスクとして、加齢や遺伝性のものがあり、これらを変えることは困難ですが、2017年の医学誌によると、生涯を通じて危険因子となる、教育期間の短さ、高血圧、肥満、難聴、喫煙、うつ病、運動不足、社会的孤立、糖尿病といった9項目をコントロールし、修正できれば、認知症の35%は予防や進行を遅らせたりできると報告されています1。さらに2020年の報告では、これら9項目に加え、過度の飲酒、頭部外傷、大気汚染が加えられ、12項目の危険因子を修正できれば、認知症の40%は予防や進行を遅らせることができると報告されています2。また、世界保健機関 (WHO) の「認知機能低下および認知症のリスク低減」のガイドラインでは、うつ病や難聴に関しては根拠が不十分とされましたが、身体活動、喫煙、栄養、飲酒、認知訓練、社会活動、体重(肥満)、高血圧、糖尿病、脂質異常症を改善できれば認知症のリスクが低減できるとされています3

運動による予防

 このような危険因子をみると、生活習慣病予防が認知症対策にもなることがわかるかと思います。生活習慣病予防で効果的なのが運動です。運動というと敬遠される方がいるかもしれませんが、散歩や自転車に乗る、屋内の掃除、介護等の生活活動も含めた身体活動でも有効です。我が国でも健康寿命の延伸などを実現するため、厚生労働省によって始められた国民健康づくり運動で「健康日本21」があり、その中に「健康づくりのための運動指針2006」があります。この指針ではメッツという身体活動の強度を表す単位を用いて、それをどのくらいの時間行ったかの総和で目標値を設定しています。例えば、座って安静にしている状態を1メッツとして、通常歩行は3メッツになります(図1)。また、身体活動の量を表す単位は、身体活動の強度メッツに実施時間をかけたエクササイズ(=メッツ・時) が用いられています。例えば、3メッツの通常歩行を1時間行えば、3メッツ×1時間= 3エクササイズ(=メッツ・時) となります。4メッツの速歩を15分行えば、4メッツ×15分 (1/4時間) = 1エクササイズとなります。身体活動の強度に関する細かな資料につきましてはこちら(PDF:1265KB)このリンクは別ウィンドウで開きますを参考にしてください。

参考資料 1 身体活動のエクサイズ数表「3メッツ」以上の運動 (身体活動量の目標の計算に含むもの)
メッツ 活動内容  1エクサイズに相当する時間
3. 0 自転車エルゴメーター:50 ワット、とても軽い活動 、ウェイトトレーニ ング(軽・中等度)、ボーリング、フリスビー、バレーボール 20分
3. 5 体操(家で。軽・中等度)、ゴルフ(カートを使って。待ち時間を除く。 注2 参照) 18分
3. 8 やや速歩(平地、やや速めに=94m/ 分) 16分
4. 0 速歩(平地、95~100m/ 分程度)、水中運動、水中で柔軟体操、卓 球、太極拳、アクアビクス、水中体操 15分
4. 5 バドミントン、ゴルフ(クラブを自分で運ぶ。待ち時間を除く。) 13分
4. 8 バレエ、モダン、ツイスト、ジャズ、タップ 13分
5. 0 ソフトボールまたは野球、子どもの遊び(石蹴り、ドッジボール、遊 戯具、ビー玉遊びなど)、かなり速歩(平地、速く=107m/ 分)  12分
5. 5 自転車 エルゴメーター:100 ワット、軽い活動 11分
6. 0 ウェイトレーニング(高強度、パワーリフティング、ボディビル)、美容体操、ジャズダンス、ジョギングと歩行の組み合わせ(ジョギングは10分以下)、バスケットボール、スイミング:ゆっくりとした 10分
6. 5 エアロビクス 9分
7. 0 ジョギング、サッカー、テニス、水泳:背泳、スケート、スキー 9分
7. 5 山を登る:約1 ~2kgの荷物を背負って 8分
8. 0 サイクリング(約20km/時)、ランニング:134m/分、水泳:クロール、ゆっくり(約45m/分)、軽度~中強度 8分
10. 0 ランニング:161m/ 分、柔道、柔術、空手、キックボクシング、テコンドー、ラグビー、水泳:平泳ぎ 6分
11. 0 水泳:バタフライ、水泳:クロール、速い(約70m/分)、活発な活動  5分
15. 0 ランニング:階段を上がる 4分

図1. 健康づくりのための運動指針2006
(健康づくりのための運動指針2006資料より抜粋)

 さらに「健康づくりのための身体活動基準 2013」では、子供から高齢者までの基準を検討し、科学的根拠のあるものについて基準を設定しています。18歳〜64歳では3メッツ以上の強度の身体活動を毎日60分(一週間の目標値は23エクササイズ)行い、そのうち3メッツ以上の強度の運動を毎週60分(一週間の目標値は4エクササイズ)行います。65歳以上では強度を問わず、身体活動を毎日40分(一週間の目標値は10エクササイズ)行います。ただし、これらは健康診断の結果が基準範囲内の方の基準であり、血糖・血圧・脂質のいずれかが保健指導レベルの方は身体活動のリスクに関するスクリーニングシート(PDF:960KB)このリンクは別ウィンドウで開きますでリスクがないことを確認する必要があります。既に疾患をお持ちの方はかかりつけ医に相談されることが必要です(図2)。

図2. 健康づくりのための身体活動基準 2013(健康日本21(第二次)参考資料より抜粋)

身体活動のリスクに関するスクリーニングシート

  チェック項目 回答 
1 医師から心臓に問題があると言われたことがありますか?
(心電図検査で「異常がある」と言われたことがある場合も含みます)
はい いいえ
2 運動をすると息切れしたり、胸部に痛みを感じたりしますか? はい いいえ
3 体を動かしていない時に胸部の痛みを感じたり、脈の不整を感じたりすることがありますか? はい いいえ
4 「たちくらみ」や「めまい」がしたり、意識を失ったことがありますか? はい いいえ
5 家族に原因不明で突然亡くなった人がいますか? はい いいえ
6 医師から足腰に障害があると言われたことがありますか?
(脊柱管狭窄症や変形性膝関節症などと診断されたことがある場合も含みます)
はい いいえ
7 運動をすると、足腰の痛みが悪化しますか? はい いいえ

身体活動の増加でリスクを低減できるものとして糖尿病・循環器疾患等に加え、がんやロコモティブシンドローム、認知症などが挙げられていることから、健康寿命の延伸のために、このような基準を参考に、自らが出来る範囲で身体を動かしてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】

  1.  Livingston G, Sommerlad A, Orgeta V, Costafreda SG, Huntley J, Ames D, Ballard C, Banerjee S, Burns A, Cohen-Mansfield J, Cooper C, Fox N, Gitlin LN, Howard R, Kales HC, Larson EB, Ritchie K, Rockwood K, Sampson EL, Samus Q, Schneider LS, Selbæk G, Teri L, Mukadam N. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet 390:2673-2734, 2017.
  2. Livingston G, Huntley J, Sommerlad A, Ames D, Ballard C, Banerjee S, Brayne C, Burns A, Cohen-Mansfield J, Cooper C, Costafreda SG, Dias A, Fox N, Gitlin LN, Howard R, Kales HC, Kivimäki M, Larson EB, Ogunniyi A, Orgeta V, Ritchie K, Rockwood K, Sampson EL, Samus Q, Schneider LS, Selbæk G, Teri L, Mukadam N. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet 396:413-446, 2020.
  3. Risk Reduction of Cognitive Decline and Dementia: WHO Guidelines. Geneva: World Health Organization; 2019. WHO Guidelines Approved by the Guidelines Review Committee

【用語】

(文責 渡邉淳)


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