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早老症を知っていますか?

早老症を知っていますか?

 早老症は、老化に似た症状が実際の年齢よりも前倒しされて、若いときから見られる病気です。遺伝子の異常で発病しますが、世界中の早老症患者の約6割が日本人という症例に〝ウェルナー症候群〟があります。1904年にドイツの医師オットー・ウェルナー(Otto Werner)がはじめて報告したために、病名にウェルナー先生の名前が付けられた病気です。症状は、思春期を超えた20代から、脱毛や白髪が見られ、白内障も発病します(図1)。その後、手足の筋肉や皮膚も痩せて硬くなるうえ、糖尿病や脂質異常症(コレステロールや中性脂肪の異常)も多くなり、40代でがんや心臓の病気に罹患して亡くなってしまう病気です(図2)。しかし、現在では、糖尿病や脂質異常症に対する治療法が進化したことで、50〜60代まで生きられる方も見受けられるようになりました。原因となる遺伝子の異常とは、〝WRN遺伝子〟(病名から呼称された遺伝子名)のことで、両親から受け継いだWRN遺伝子に変異があると発病するのです。WRN遺伝子は、本来、遺伝子(DNA)の傷を修復する働きを持っていますが、罹患される方はその働きが弱い(ない)ことから発症してしまうのです。

図1ウェルナー症候群の女性

図1、ウェルナー症候群の女性(15歳、左)、同じ女性の48歳のときの写真(右)。

写真 国際レジストリ登録(ワシントン大学病院)/ウェルナー症候群

図2ウェルナー症候群の臨床症状と出現年齢

図2、ウェルナー症候群の臨床症状と出現年齢(20~30年、老化が早く進む)

ウェルナー症候群の他にも早老症となる病気があります。〝ハッチンソン・ギルフォード早老症候群“です。カナダ人の患者アシュリー・ヘギさんが、何度かテレビなどで紹介されたので、記憶している方もおられるかもしれません。この病気は、小児期の10代から動脈硬化を発病し、それが原因で脳や心臓の血管障害が非常に悪化して、最終的に重い障害で亡くなられます。ハッチンソン・ギルフォード早老症候群は、平均寿命は14〜15歳という、たいへん傷ましい病気なのです。この病気もLMNA遺伝子(DNAが収納される細胞核の核膜を形作る働き)の変異で発病するとても稀な病気ですが、症状がとても重いために関心度が高く、広く知られています。

残念ながら、ウェルナー症候群もハッチンソン・ギルフォード早老症候群も、根本的な治療法はいまだに見つかっていません。患者数が少ないことや、モデル動物の開発が進んでいないことなどが理由と考えられています。さまざまな症状を発病するたびに症状を緩和する対処療法しかないのが現状なのです。ただ早老症で共通する現象として、DNAに傷が入ることと、細胞が老化することはわかっています。最近、老化した細胞に対して効果的な薬が複数見つかったり、早老症患者のiPS細胞(*)が樹立されたので、有効な治療法が見つかることが期待されています。私達も一般的な老化と早老症の共通点を見つける研究や、新しいウェルナー症候群モデルマウスの開発研究を進めています。

*iPS細胞:人間の皮膚や血液などの体細胞に、ごく少数の因子(山中因子と呼ばれる)を導入し、培養することによって、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力をもつ多能性幹細胞に変化する細胞。

参考資料

  1. 三木哲郎「ヒトにおける老化遺伝子」新老年学 第3版 第4章3 東京大学出版会 2010
  2. ウェルナー症候群ハンドブックこのリンクは別ウィンドウで開きます
  3. Shimamoto, A. et al. Reprogramming suppresses premature senescence phenotypes of Werner syndrome cells and maintains chromosomal stability over long-term culture. PLoS One; 9(11):e112900 (2014).

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