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日常的な活動と認知症予防

はじめに

 今、日本はたいへんなスピードで高齢化が進み、超高齢社会に突入しています。それと同時に、認知症の方の人数も急速に増えていることが明らかになっており、認知症の治療だけではなく認知症を予防することの重要性も高まっています。したがって、認知症のリスクを少しでも減らすために、今できることから取り組み始めることが重要と考えられます。

身体活動・知的活動・社会活動

 それでは、認知症のリスクを減らす手立てとして、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。これに関しては、現在も世界中で研究が続けられていますが、これまで行われてきた多くの調査から少しずつ明らかになってきたことがあります。それは、活動的なライフスタイルを確立させることの重要性です。特に、体を動かす「身体活動」、頭を使う「知的活動」、人とかかわる「社会活動」などを日常生活の中にどれだけ多く取り込むことができるかが、認知症の予防や発症を遅らせるための重要なポイントと考えられます。

様々な活動と認知症の関係

 ここからは、なぜこれらのライフスタイルが認知症予防と関係するのか、その根拠について、世界各国で行われた調査の結果をご紹介します。ある研究では、認知機能に問題のない1,740名の高齢者をその後数年間にわたり追跡調査した結果、運動習慣を持っていない人(週3回未満)と比べて運動習慣を持っていた人(週3回以上)はその後に認知症になった割合が少なかったことを報告しました(図1)。また、別の研究では、認知機能に問題のない469名の高齢者を数年間にわたり追跡調査した結果、読書、楽器演奏、ボードゲームについて、ほとんどしない人(週2回未満)と比べてよくしていた人(週2回以上)はその後に認知症になった割合がそれぞれ少なかったことを報告しました(図2)。さらに、また別の研究では、認知機能に問題のない2,249名の高齢者を数年間にわたり追跡調査した結果、家族や友人と会うまたは連絡をとる頻度が少ない人(週1回未満)と比べて多い人(毎日)はその後に認知症になった割合が少なかったことを報告しました(図3)。これらの調査結果は、活動的なライフスタイルが認知症の予防や発症を遅らせることにつながる可能性を示しています。

調査の結果、運動習慣を持っていない人と比べて運動習慣を持っていた人は、その後に認知症になった人の割合が38%少なかったことが確認されました。

図1. 「身体活動」と認知症の関係(文献1より作図) 

調査の結果、読書、楽器演奏、ボードゲームについて、ほとんどしない人と比べてよくしていた人は、その後に認知症になった人の割合が、それぞれ35%、69%、74%少なかったことが確認されました。

図2. 「知的活動」と認知症の関係(文献2より作図) 

調査の結果、家族や友人と会うまたは連絡をとる頻度が少ない人と比べて多い人は、その後に認知症になった人の割合が43%少なかったことが確認されました。

図3. 「社会活動」と認知症の関係(文献3より作図) 

最後に

 今回は、認知症予防に向けて今から始められる取り組みの例として、身体活動・知的活動・社会活動をご紹介させて頂きました。ただし、今回ご紹介した調査結果はいずれも、各活動を「習慣的に」実施し続けることが、認知症のリスクを下げることに繋がっている可能性を示したものです。すなわち、これらの活動的なライフスタイルを、どれだけ早くから、どれだけ長く続けられるかが、認知症予防のポイントになるかもしれません。また、これらの日常的な活動の効果は、それ単独ではあまり大きなものではないかもしれません。そのため、他のコラムで紹介されている話題もご参考いただいた上で、認知症予防に役立つと考えられる取り組みを一つでも多く実践して頂くことが重要と考えられます。

引用文献

  1. Larson, et al., Exercise is associated with reduced risk for incident dementia among persons 65 years of age and older. Ann Intern Med, 144(2): 73-81, 2006.
  2. Verghese, et al., Leisure activities and the risk of dementia in the elderly. N Engl J Med, 348(25): 2508-2516, 2003.
  3. Crooks, et al., Social network, cognitive function, and dementia incidence among elderly women. Am J Public Health, 98(7): 1221-1227, 2008.

研究関連