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すこやかな高齢期をめざして ~ワンポイントアドバイス~

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魚の栄養と気分の落ち込み【うつ予防】

老化疫学研究部 Department of Epidemiology of Aging

目まぐるしく変化する現代社会では、ふと気がつくと「こころ」が疲れていると感じることはありませんか?

「こころの健康」を損なう病の一つに「うつ病」があります。厚生労働省の調査によると、平成8年から約15年の間にうつ病の患者が約2倍に増加しており、深刻な社会問題となっています。

近年、魚介類から摂取できる栄養素の「ドコサヘキサエン酸(DHA)」や「エイコサペンタエン酸(EPA)」注1)が「うつ病」の予防に対して有効であるといわれています。しかし、国内での研究成果はまだ非常に少ないです。

 

NILS-LSA(ニルス・エルエスエー)では、第5次調査に参加してくださった地域在住の40歳以上の参加者2,123名のデータを用いて、血液中のDHAおよびEPA濃度の高い人と低い人で「抑うつ」の程度が違うかについて検討をおこないました。

​まずは下の図をご覧ください。血液中のDHA濃度がもっとも高いグループでは、もっとも低いグループを基準とした場合、「抑うつ」状態のリスクは半分程度でした。右図のEPAも、もっとも高いグループと2番目に高いグループでは、もっとも低いグループと比較して半分から6割程度とリスクが小さいことが分かりました。血液中のDHAやEPAの濃度が高いほど「抑うつ」状態であるリスクも小さく、「抑うつ」の予防に有効である可能性がみえてきました。

左の図が血液中のDHA濃度と抑うつ状態のリスクの関連を示したもので、1ミリリットルあたり214マイクログラムで抑うつのリスクが低い。右の図が血液中のEPAの濃度と抑うつ状態のリスクの関連を示しており、1ミリリットルあたり80マイクログラム以上から抑うつのリスクが低いことを示している。

図:血液中DHA・EPAの濃度と「抑うつ」状態との関連

※「抑うつ」はCES-D(Center for Epidemiologic Depression Scale)という検査で判定をしました。
※血中量は5分位(少ない方から順に5等分し5グループとする)として解析を行いました。
※年齢、性、教育歴、BMI、喫煙、飲酒、身体活動量、結婚、就労、既往歴を考慮して解析を行いました。

食事等から摂取したDHAやEPAの量は血液中の濃度に反映されやすいことが知られています。つまり、これらを多く含む魚介類を意識して毎日摂るようにすると「抑うつ」を防ぐことができる可能性が考えられます。

 

今回は一時点の解析結果ですので、血中量が高いから「抑うつ」ではないのか、あるいは「抑うつ」ではないために血中量も高いのか因果関係までは断定できません。

しかし、DHAやEPAが認知機能の低下に対して有効であるという報告もあり、魚を食べると脳だけでなく「こころ」も元気になれるかもしれません(トピックスNo.18「食事と認知機能(1)参照)。

注1)「ドコサヘキサエン酸(DHA)」・「エイコサペンタエン酸(EPA)」
私たち体の重要な構成成分であると同時に、脳・神経の機能の維持、抗血栓作用や血中脂質低下作用などたくさんの重要な働きをする脂質の一種で、必須脂肪酸として知られています。(トピックスNo.6「お肉とお魚、よく食べるのはどちら」参照このリンクは別ウィンドウで開きます

 

こころの健康のために食卓にお魚を取り入れましょう!

 

<コラム担当:堀川 千賀>

*このコラムの一部は、以下の研究成果として発表しています*

Horikawa C, Otsuka R, Kato Y, Nishita Y, Tange C, Kakutani S, Rogi T, Kawashima H, Shibata H, Ando F, Shimokata H.:
Cross-sectional association between serum concentrations of n-3 long-chain PUFA and depressive symptoms: results in Japanese community dwellers. 
Br J Nutr. 2016 Feb;115(4):672-80.

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