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高齢者「うつ」の原因は?

国立長寿医療研究センター 精神科 安野史彦

はじめに

心に元気がない状態は一般に「うつ」と言われています。うつは気分の障害です。気分とは精神の活動状態の全般的傾向のようなもので、気分が沈滞するといつもくよくよとして、なにもできず、考えも浮かばないような状態となります。これが行き過ぎると仕事も手につかず体はどこも悪くないのに布団から出られないような感じになったりします。

うつは年齢にかかわらずおこりうる病態ですが、高齢者における問題として認知機能の低下とならんで重要な位置をしめています。アメリカの研究では65歳以上の高齢者の10%には何らかのうつ病性障害が認められるそうです。日本の研究ではニュータウン在住の高齢者の3分の1にうつ状態が認められました。その有病率の高さからも、高齢者のうつの存在は、重大な問題であることがわかります。

「うつ」とはなにか、もう少し詳しく

前章で「うつ」は心に元気がない状態と述べましたが、医療のうえでは、もう少し「うつ」の用語についてはっきりさせる必要があります。「うつ病」として診断される場合は、気分、喜びの喪失、自責感といった精神症状に加えて、全身倦怠感、体重減少あるいは増加といった身体症状を伴った状態が典型的です。診断基準として医療上、広く使われているDSM-5とよばれる指標において「うつ病/大うつ病性障害」と記述されている一群が典型的な病像です。具体的には、

うつの画像

  1. 気分が落ち込む
    または、
  2. 興味がわかない/喜べない
    という症状のいずれかがあり、そのうえで、
  3. 著しい体重減少または増加、もしくは食欲の減退または増加
  4. 不眠または睡眠過多
  5. 焦って落ち着かなくてじっとしていられない、または逆に身動きがとれない
  6. 疲れやすい、気力がでない
  7. 自分に価値がない、自分が悪いと思う
  8. 物事に集中できない、決められない
  9. 死について繰り返し考えてしまう

 

の1から9までの症状のうち、合わせて5つ以上の項目に当てはまれば、「うつ病」の可能性を考えます。そのうえで、苦痛であり生活の問題が生じていて、その状態が他の病気や原因からは説明できない場合、「うつ病」とみなして対応を行います。うつ症状がいくつか認められるけれども「うつ病」とまではいえない程度の気分の落ち込みは、「うつ状態」という言葉が使われます。うつ状態とうつ病をふくめて「うつ」として、今後、話をすすめていきます。

高齢者うつの特徴について

高齢者にみられるうつでは、他の年齢層とは異なる特徴がいくつかあります。高齢者においては、加齢に伴う心身機能低下、社会的な役割喪失への不安が生じてきます。そのような状況のもとで、心理的には、心身機能の低下と孤独を受け入れられないことが発症に関わってくることが多く見られます。

また、心と体は連動しており、分かちがたく結びついていることが重要です。高齢者では特にこの結びつきが強く、心と身体を別々に治療しようとしても、なかなかうまくいかないことが多いです。たとえば、脳卒中後片麻痺を生じた症例においてうつ病併発によりリハビリテーションの意欲がなくなり運動能力の回復が遅れることがあります。一方で回復の遅れが患者さんの不安を引きおこし、うつを悪化させることにもつながります。高齢者ではうつと身体機能の回復を同時に並行して進めていく必要性があります。

高齢者では、うつと生活習慣病との関連も重要です。高齢者うつ病・うつ状態のリスクとして、喫煙、拡張期血圧、肥満、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の存在が知られています。特に、うつ病と糖尿病の発症はお互いに影響を与え合っており、うつ病において糖尿病の発症リスクは1.6倍に上がり、糖尿病例ではうつ病発症リスクが1.15倍高いことが報告されています。高齢者においてうつを予防するためには、このような生活習慣病に対する身体管理への意識を高めることも重要です。

身体機能の問題に関連して、服薬の影響も重要です。多種多様な薬を服薬している方では本当に必要な薬剤だけに絞り込む必要があります。高齢者自身もあいまいではっきりしない症状に対して、いたずらに投薬を望むのを避けることが望ましいと考えられます。

高齢者うつと認知症

認知症とうつは合併することも多く、認知症の前触れとして、うつが現れる場合もあります。一方で、うつが現れると、考えるのが億劫になり、集中できなくなって、見かけ上、認知症のようにみえることもあります。うつによる見かけの認知症であれば、うつを治療することで、日常生活機能の改善が期待できます。疑いがあれば専門医のもとへの受診が望まれます。

精神科・心療内科での高齢者のうつの治療

  1. 薬物治療

うつ病に使われる薬は以前からあったのですが、眠気や口の渇きが強くて高齢者の方には使いづらいところがありました。ところが最近使用されるようになってきた選択的セロトニン再取り込み阻害薬や、セロトニン、ノルアドレナリン再取り込み阻害薬はこうした有害な作用が少ないのが特徴でしかもよく効きます。

  1. 精神療法

うつ病にかかる方の心は一言で言って疲れています。まず、心身ともに休める環境を整えます。また、たいへんまじめで努力家が多く、悪いことは全部自分のせいだと考えがちです。だから、もう頑張らなくていいよ、休んでいいよ、悪いのはあなたのせいじゃないと保証します。いったん、休むと決めると次第に心の安定が得られてきます。若い人はこのままで治療終結に向かえるのですが、高齢者の方はもう一段階が必要です。高齢者では安静が長く続くと今度は体の機能まで弱ってしまい、心が元気になる前に体が弱ってしまいますので、ある程度精神状態がよくなると今度は活動を促すようにしていくことが大事です。高齢者のうつの治療においては、高齢者の身体的、精神的な特徴を踏まえた総合的な治療が大切です。