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脳の免疫細胞であるミクログリアが、アルツハイマー病の初期に起こる抑うつや睡眠障害に関わる神経の変性を防いでいることを見出しました

2026年6月26日

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)研究所・認知症先進医療開発センター・神経遺伝学研究部の廣田研究員、山本研究生、榊原研究員、関谷副部長、飯島部長らは、脳内の免疫細胞であるミクログリアが適切に働かないと、アルツハイマー病の初期に見られる抑うつや睡眠障害の原因となる神経変性が悪化してしまうことを、マウスモデルを用いた実験で明らかにしました。本研究から、ミクログリアの働きを高める方法の開発が、早期アルツハイマー病に対する治療法につながる可能性が示されました。本研究は、東京大学大学院薬学研究科の高鳥助教、富田教授との共同研究で行われました。

研究背景

近年のゲノムワイド関連解析などから、アルツハイマー病の発症には、脳内の免疫細胞であるミクログリアが関与することが報告されています。中でも、ミクログリアの活性化に関わるTREM2の遺伝子変異は、アルツハイマー病の原因であるアミロイド斑の蓄積を悪化させ、発症リスクを高めることが報告されています。しかしその一方で、ミクログリアの活性化が慢性化して脳内の炎症が亢進すると、神経細胞が傷害されるという報告もあります。このように、ミクログリアの働きは、アルツハイマー病の新しい治療薬の標的として注目されており、ミクログリアが病気の進行に果たす役割の解明は非常に重要です。

アセチルコリンやセロトニン、ノルアドレナリンなどの神経系は、その構造や機能がマウスからヒトまで良く似ており、脳の深部から脳全体に足(神経軸索)を伸ばして(投射して)、注意、覚醒、睡眠、抑うつ、不安、記憶など様々な脳機能を調節することが知られています(図1左)。これらの神経系は、アルツハイマー病の初期に変性し、抑うつや不安、睡眠障害などの行動・心理症状や、認知機能低下を引き起こすと考えられていて、昔からアルツハイマー病の症状を和らげる薬の標的と考えられてきました。

私たちはこれまでに、脳深部から大脳皮質へ投射しているアセチルコリンやノルアドレナリン神経の軸索が、アミロイド斑の蓄積に伴い減少することを、アルツハイマー病モデルマウスを用いて報告してきましたが、そのメカニズムは不明でした(図1右J Alzheimers Dis. 2021;82(4):1513-1530., J Alzheimers Dis. 2023;93(3):1065-1081.)。大脳皮質ではアミロイド斑の蓄積に伴いミクログリアが活性化していることから、これらミクログリアが神経軸索の変性に関わっている可能性があります。そこで本研究では、ミクログリアの活性化を遺伝子操作により起こらなくした際に、神経変性が改善するのか、それとも増悪するのかを調べました。

図1。アセチルコリン・ノルアドレナリン神経系の投射とアミロイドの蓄積による神経軸索の変性 アセチルコリン神経やノルアドレナリン神経は、脳の深部から脳全体へ長い軸索を投射しています。アルツハイマー病モデルマウスでは、アミロイドの蓄積とともに、大脳皮質に投射する神経軸索が減少・変性します。

研究成果

本研究では、ミクログリアの活性化を担うTREM2/TYROBPシグナルが働かなくなった(Tyrobp遺伝子を欠損)アルツハイマー病モデルマウスを作製し、その条件下で神経変性が「良くなるのか?」、それとも「悪くなるのか?」を調べました。

これまでの報告と同様に(iScience, 2023, 26(4),106375.)、Tyrobp遺伝子を欠損したアルツハイマー病モデルマウスでは、アミロイド斑を取り囲むミクログリアが減り、またその近くでリン酸化タウを蓄積して肥大化した神経突起やシナプスが増えていました。また、これらの変化は、大脳皮質を構成する興奮性神経や抑制性神経などの小さな神経細胞の神経突起やシナプスで生じていることも報告しました(Brain Commun. 2022, 4(6), fcac286., Cell Rep. 2025 Sep 23;44(9):116203.)。このことから、ミクログリアの活性化が適切に起こらないと、アミロイド斑の近傍で起こる神経変性が悪化することを確認しました。

それに対して、アセチルコリンやセロトニン、ノルアドレナリン神経系の投射神経軸索は、アミロイド斑の周囲に限らず、より広い脳領域で減少します(図1右J Alzheimers Dis. 2021;82(4):1513-1530., J Alzheimers Dis. 2023;93(3):1065-1081.)。そのため、ミクログリアの活性化が神経軸索を傷つけるなど、悪い影響を与えている可能性も十分あります。そこで、Tyrobp遺伝子を欠損したアルツハイマー病モデルマウスで、これらの神経系についてを調べたところ、いずれの神経軸索の変性も悪化していることを見出しました(図2)。Tyrobp遺伝子の欠損だけでは神経変性は起こらないことから、ミクログリアの活性化は、アルツハイマー病で起こる神経変性を防ごうとしていると考えられました。

図2。Tyrobp欠損アルツハイマー病モデルマウスで見られる投射軸索の変化 マウス脳でもヒトと同様に、アセチルコリン・ノルアドレナリン神経は、脳の深部から 脳全体へ長い軸索を投射しています。Tyrobpを欠損すると,大脳皮質へ投射するアセチルコリン神経やノルアドレナリン神経はアルツハイマー病モデルよりも減少しており、アセチルコリン神経の変性したシグナルも増加することが分かりました。

本研究により、大脳皮質のミクログリアがTREM2/TYROBPシグナルを介して正常に活性化できないと、アミロイド斑の近くで起こる神経変性のみならず、脳の深部から大脳皮質へと投射するアセチルコリンやセロトニン、ノルアドレナリン神経の軸索変性も悪化し、最終的には脳の深部へのダメージへとつながる可能性が示されました(図3)。

図3。ミクログリアの機能低下はアミロイドの蓄積が引き起こす神経変性を増悪させる。ミクログリアの機能が低下しているTyrobp欠損アルツハイマー病モデルマウスでは、大脳皮質のアミロイド斑の周囲に集まるミクログリアが減少することで、アミロイド斑周囲のp-tau217の発現が増加し、興奮性/抑制性神経のシナプス変性が増悪することが分かりました。さらに,大脳皮質へ投射するコリン作動性神経やノルアドレナリン神経の軸索も減少していることが分かりました。

本研究では、アルツハイマー病の発症リスクに関わるミクログリア遺伝子の機能不全が、アルツハイマー病の早期から認められる抑うつなどの行動・心理症状に関わる神経系の変性を悪化させることを明らかにしました。この結果から、早期のアルツハイマー病に対して、ミクログリアの機能を維持・向上する治療法の開発が重要である可能性が示されました。

本研究成果は、令和8年5月2日付けで米国科学誌Molecular Neurodegeneration Advancesにonlineで掲載されました。本研究は、国立長寿医療研究センター長寿医療研究開発費、科研費(日本学術振興会科学研究費助成事業:JP23K16787、JP24K14693、JP23K24224、JP23H00394、JP23K27499)、日本医療研究開発機構(AMED:JP23dk0207067、JP23dm0207073、JP24wm0625303)「認知症研究開発事業、脳とこころの研究推進プログラム」、科学技術振興機構(JST)「ムーンショット型研究開発事業:JPMJMS2024、次世代研究者挑戦的研究プログラム:JPMJSP2130」からの研究助成を受けて行われました。

原著論文情報

Yu Hirota, Jun Yamamoto, Sho Takatori, Yasufumi Sakakibara, Kimi Takei, Tamiko Saji, Michiko Sekiya#, Taisuke Tomita#, Koichi M. Iijima#, “Impaired microglial TYROBP/DAP12 signaling exacerbates cortical cholinergic and noradrenergic axonal degeneration in Aβ amyloidosis”このリンクは別ウィンドウで開きますMolecular Neurodegeneration Advances, 2, 19 (2026).共同筆頭著者、共同責任著者

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