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バイオインフォマティクス研究部 重水大智部長らの論文がGerontology誌に掲載されました

【研究成果のポイント】

【概要】

 サルコペニアは、加齢に伴い筋肉量や筋力が低下し、日常生活の動作が困難になる疾患であり、その進行は転倒や要介護のリスクを高めます。発症には、加齢に伴う筋組織の変化や慢性炎症が深く関与していると考えられ、加えて、遺伝的要因の影響も示唆されています。45~96歳の男性双生児を対象とした先行研究では、筋力の遺伝率が48~55%と推定されています。

 そこで本研究では、サルコペニア患者67名と正常対照者(ロバスト)62名(計129名)を対象に、全ゲノムシークエンス*1を実施し、遺伝的要因を解析しました。その結果、サルコペニア患者とロバストのレアバリアント*2関連解析において、SLC41A3遺伝子内のフレームシフト欠失変異*3がサルコペニア発症と関連することが示されました(表1)。また、この変異は、骨格筋分化マーカーであるMyogenin(MYOG)の発現低下と関連が示されました(図1, P = 0.0094)。

 さらに、ヒト白血球抗原(Human leukocyte antigen: HLA)*4とサルコペニア発症との関連を調べたところ、東アジア人において比較的保有率が高いHLA-DPB1*02:01アレルが、サルコペニア発症の保護因子であることが明らかになりました(表2)。

 本研究の成果は、サルコペニアの新たな遺伝的要因を明らかにし、筋形成や病態メカニズムの理解の向上に寄与するものと考えられます。本研究成果は、老年医学分野の国際専門誌「Gerontology」に、2025年3月18日に掲載されました。

 なお本研究は、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)、長寿医療研究開発費、中冨健康科学振興財団の助成を受けて行われました。

表1.レアバリアント解析から得られたSLC41A3遺伝子内のフレームシフト欠失変異

染色体:位置

(GRCh37)

検体数 (A1/A1A2/A2)

Pfisher

Plogistic

オッズ比

95%

信頼区間

遺伝子

サルコペニア

ロバスト

3:125725268

2/22/43

0/8/54

0.0047

0.0012

11.52

2.62ー50.69

SLC41A3

Pfisher:フィッシャーの正確検定によって算出されたP値; Plogistic:ロジスティック回帰によって算出されたP値; A1:マイナーアレル; A2:メジャーアレル

表2. HLA-DPB1*02:01のアレル頻度

検体数 (A1/A1A2/A2)

A1アレル頻度

オッズ比

95%

信頼区間

P

サルコペニア

ロバスト

サルコペニア

ロバスト

1/19/46

9/23/30

0.16

0.33

0.17

0.060ー0.51

0.0015

A1:HLA-DPB1*02:01アレル; A2:HLA-DPB1*02:01以外のアレル

SLC41A3の機能解析

図1.SLC41A3の機能解析

ヒト筋芽細胞にsiSLC41A3を72時間投与し、SLC41A3のノックダウン(KD)を行った。KDによりMYOGの発現が有意に低下した。しかし、その下流因子であるMyomaker (MYMK) とMyomerger (MYMG) の発現は変化しなかった。

【用語解説】

*1 全ゲノムシークエンス

次世代シークエンサーを用いて生物の全DNA配列を網羅的に解読し、遺伝的変異を高精度に解析する技術。

*2 レアバリアント

集団内で1%未満の遺伝的変異。希少疾患や特定の形質に強い影響を与える。

*3フレームシフト欠失変異

アミノ酸の読み枠がずれてしまう欠失変異。

*4 ヒト白血球抗原

免疫応答を調節する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の一部であり、自己・非自己の識別や移植拒絶、自己免疫疾患に関与。

※研究グループ

国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター

重水大智(しげみず だいち) 研究部長

木村哲晃(きむら てつあき) 研究員

菅沼睦美(すがぬま むつみ) 研究員

尾崎浩一(おざき こういち) センター長/研究部長

国立長寿医療研究センター 研究所 

新飯田俊平(にいだ しゅんぺい) 研究所特任補佐

国立長寿医療研究センター 研究所 ジェロサイエンス研究センター

細山徹(ほそやま とおる) 研究副部長

国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター

佐竹昭介(さたけ しょうすけ) 研究部長

国立長寿医療研究センター 病院 ロコモフレイルセンター

松井康素(まつい やすもと) 非常勤研究員

竹村真里枝(たけむら まりえ) 医長

理化学研究所 生命医科学研究センター ファーマコゲノミクス研究チーム

筵田泰誠(むしろだ たいせい) チームリーダー

福永航也(ふくなが こうや) 研究員

広島大学大学院 医系科学研究科循環器内科学

中野由紀子(なかの ゆきこ) 教授

古谷元樹(ふるたに もとき) 特任助教

【論文情報】

表題

Identification of a risk allele at SLC41A3 and a protective allele HLA-DPB1*02:01 associated with sarcopenia in Japanese

掲載誌

Gerontology

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