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ホーム > 研究所 > ニュース&トピックス > バイオインフォマティクス研究部 木村哲晃研究員らの論文がnpj Aging誌に掲載されました
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy bodies: DLB)は高齢者でアルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)に次いで多く見られる認知症で、生活習慣などの環境要因や遺伝要因が複雑に関与して発症すると考えられています。近年、欧米の研究チームからα-シヌクレインをコードするSNCA遺伝子を含む複数の遺伝子が、DLB発症リスクを高める遺伝的要因であることが報告されています。しかし、DLBの発症機序に関しては未だ多くの点が不明であり、その解明にはさらなる研究が必要とされています。
そこで本研究グループは、国立長寿医療研究センターバイオバンクに登録されているDLB患者45人と認知機能正常高齢者1699人の全ゲノム配列データ(合計1744人)を用いて、DLBと関連する遺伝子内のバリアントを網羅的に調べました。その結果、CDH23遺伝子にある3つのミスセンス変異(rs181275139、rs563688802、 rs137937502)がDLB発症と関連することが見出されました(表1)。また、これらのCDH23遺伝子変異は東アジア人以外ではほとんど見られませんでした。
表1 全ゲノムデータ解析で見つかったDLBと関連する3つのCDH23遺伝子変異 P*は年齢と性別で補正されたロジスティック回帰により算出されました。 |
CDH23遺伝子はカドヘリンファミリーに属するタンパク質をコードする遺伝子で、内耳有毛細胞の感覚毛形成に必須の遺伝子です。本研究で同定されたCDH23の変異のうち2つ(rs181275139とrs137937502)は、日本人や中国人において難聴の原因として報告されています。加えて、以前よりDLB患者は難聴の患者が多いことが知られていました。そこで、CDH23遺伝子変異と主観的聴覚障害との関連を調査しました。その結果、DLB患者においてCDH23遺伝子変異と主観的聴覚障害が関連することがわかりました(表2)。一方、DLB患者ではない集団ではCDH23遺伝子変異と主観的聴覚障害に関連がみられませんでした。このことからCDH23遺伝子変異は聴覚障害を通してDLB発症に関わっている可能性が示唆されました。
表2 CDH23遺伝子変異と主観的聴覚障害との関連 *P値は片側フィッシャーの正確検定により算出されました。 |
DLBと同じレビー小体病であるパーキンソン病(PD)ではHLAアレルが発症に関与することが知られています。そこで、DLBと関連するHLAアレルを網羅的に調べましたが、DLBと関連するHLAアレルは確認されませんでした。このことはDLBとPDの発症機序が異なる可能性を示唆していますが、今後より大規模な検体による再検証が必要と考えられます。
本研究成果は、老年病分野のオンライン英国科学誌「npj Aging」に2024年11月24日付で掲載されました。
本研究は、長寿医療研究開発費により実施されたほか、一部AMED認知症研究開発事業、文部科学省科学研究費補助金、厚生労働科学研究費を活用し実施されました。
Whole-genome sequencing to identify rare variants in East Asian patients with dementia with Lewy bodies
npj Aging