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睡眠と認知症

 ぐっすりと眠れれば、目覚めると頭がすっきりして、私たちは睡眠の脳に対する効果を実感できます。では寝ている間に脳で何が起こるのか?この10年あまりの研究で新たにわかってきたのは、寝ている間に脳は自分自身をきれいにするということです[1-3]

 脳とそれに連なる脊髄は、脳脊髄液という水に近い液体に周りを囲まれた状態で存在します。脳脊髄液は、パックに入った豆腐のように外部からの衝撃を吸収してくれます。もう一つの役目は脳の細胞から出た老廃物の洗い流しです。脳細胞は活発に活動し、不要になったものを細胞の外に排出します。その老廃物を脳から洗い流す洗浄液となるのが脳脊髄液です。脳脊髄液は血液から作られ、一日に500mlくらいが脳や脊髄の洗浄に使われると言われています。ある研究によれば、睡眠中に脳細胞は縮んで細胞と細胞の隙間が広がることが報告されています[2]。そうすると脳脊髄液による老廃物の掃除効率が上がります[2]。この営みが寝ると頭がすっきりする理由の一つかもしれません。

 この掃除には脳脊髄液の流れが必要です。その流れを生むのが脳内の血管(動脈)の脈動であることがわかってきました[3-5]。一方で、アルツハイマー型認知症の発症初期の患者さんの脳では血流が遅くなっていることが知られています[6]。血流が遅くなるとその影響で脳脊髄液の流れも弱くなり、脳の掃除もすみずみまで行き届かなくなります。その時に溜まってしまうゴミの一つが、アルツハイマー型認知症の原因かもしれないと言われているアミロイドベータ(Aβ)です[1]。マウスの実験で、脳脊髄液の流れを弱めると脳内からのAβの除去が滞り[1]、逆に脳脊髄液の流れを高めてやると除去が進むという研究もあります[4]

 もっとも、Aβが本当にアルツハイマー病の原因かということについては未だ議論が続いています[7]。この病気の発見者、アルツハイマー博士自身もAβの集まりである老人斑は、認知障害の原因ではなく結果として現れる、と強調しています[8]。脳細胞の排泄物の中に未だ発見されていない真の原因物質が潜んでいるかもしれません。

 いずれにしても脳脊髄液の循環をよくするのは認知症予防として理にかなっていると考えられます。運動も脳脊髄液の循環に効果があることから[9]、ほどよく動き、よく眠るという健康的な生活スタイル、これが最新の科学に裏付けられた、今私たちが取り得る認知症予防対策の一つといえそうです。

睡眠中の脳は自らを綺麗にする

参考資料

  1. Iliff, J. et al., A paravascular pathway facilitates CSF flow through the brain parenchyma and the clearance of interstitial solutes, including amyloid β. Sci Transl Med, 2012. 4: 147ra111.
  2. Xie, L. et al., Sleep drives metabolite clearance from the adult brain. Science, 2013. 342: p. 373-377.
  3. Fultz, N., et al., Coupled electrophysiological, hemodynamic, and cerebrospinal fluid oscillations in human sleep. Science, 2019. 366: p. 628-631.
  4. Murdock, M. et al., Multisensory gamma stimulation promotes glymphatic clearance of amyloid. Nature, 2024. 627: p. 149-156.
  5. Jiang-Xie, L. et al., Neuronal dynamics direct cerebrospinal fluid perfusion and brain clearance. Nature, 2024. 627: p. 157-164.
  6. Nortley, R. et al., Amyloid βoligomers constrict human capillaries in Alzheimer’s disease via signaling to pericytes. Science, 2019. 365: eaav9518.
  7. Lee, JH., et al., Faulty autolysosome acidification in Alzheimer’s disease mouse models induces autophagic build-up of Aβ in neurons, yielding senile plaques. Nat Neurosci, 2022. 25(6): p. 688-701.
  8. Alzheimer, A. (translated with an introduction by Förstl, H. and R. Levy) On certain peculiar diseases of old age. Hist Psychiatry, 1991. 2: p. 71-101.
  9. von Holstein-Rathlou, S. et al., Voluntary running enhances glymphatic influx in awake behaving, young mice. Neurosci Lett, 2018. 662: p. 253-258.

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