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アルツハイマー病は遺伝する?(1)

はじめに

 私の祖父はアルツハイマー病だった。私も歳を取ったら発症するのか。もしかして遺伝?そんな心配を耳にすることがあります。今回から何回かに分けて、アルツハイマー病と遺伝の関係について少し考えてみたいと思います。

 アルツハイマー病には比較的若い年齢で発症する「若年性アルツハイマー病」と、高齢になってから発症する「老年性アルツハイマー病」があります。若年性の場合は特定の遺伝子変異が受け継がれ、発症する場合が知られていますが、アルツハイマー病全体の数パーセントほどです。残る大半のアルツハイマー病は老年性ですが、遺伝は関係するのでしょうか?なんとなく、遺伝よりも環境因子や日頃の生活習慣の方が大きく影響する気もしますが、実際のところどうなのでしょうか?

双子の高齢者を調査すると・・・

 老年性アルツハイマー病に遺伝が関わる割合がどれくらいなのかを調べた研究があります。10,000組以上の65歳以上の双子を対象に、双子の片方がアルツハイマー病を発症した場合、もう片方がどれくらい発症するか調査しています。その結果は、6割程度の方がアルツハイマー病を発症したと報告しています(文献1)。また、アルツハイマー病の表現型の53%が遺伝によって説明されることも報告しています(文献2)。これらの結果から老年性アルツハイマー病もかなり遺伝の影響を受けていることが推察されます。意外だったのではないでしょうか?複数の高齢な双子の写真

そもそも遺伝とは?

 遺伝とは、生物が個々に持つ特徴が親から子へと受け継がれることを言います。我々の体を形作る細胞の中には約60億個のDNAが存在し、これは個々の特徴の遺伝情報が詰まった設計図のようなものです。この設計図が、親から子へと受け継がれることで遺伝が起こるのです。ヒトの場合、2万を超える遺伝子が存在し、そのわずかな違いによって髪の色、目の色、身長、体型、そして病気にかかりやすさなどの特徴が決定されています。ちなみに、これらの遺伝子(ジーン:gene)すべてを含む60億DNAのすべての遺伝情報のことをゲノム(genome)とよびます。

ゲノム中に複数の遺伝子がある様子

 個人のわずかな違いは、近年、高速に大量のゲノム情報を一度に解読できる「次世代シークエンサー」という解析装置の登場で可能になりました。それによって、遺伝子の一部の異常(遺伝子変異)を調べることができるようになり、患者一人一人に最適な薬や治療法の提供が可能なゲノム医療(個別化医療)が進められるようになりました。

 現在、このような検査・治療はがんの検査・治療で用いられており、「がんゲノム医療」として、標準治療がない、または終了したなどの一定の条件を満たす患者さんに限定されていますが、一部が保険診療として始められています。今後このゲノム医療が、認知症を含むさまざまな病気でも進められていくことでしょう。認知症の今のゲノム研究の詳細はまたこちらのコラムでご紹介します。

個別化医療の仕組み

文献

  1. Gatz M et al., Role of genes and environments for explaining Alzheimer’s disease. Archives of General Psychiatry 63, 168–74 (2006) doi:10.1001/archpsyc.63.2.168
  2. Ridge PG et al., Assessment of the genetic variance of late-onset Alzheimer’s disease. Neurobiology of Aging 41, 200.e13-200e20 (2016) doi: 10.1016/j.neurobiolaging.2016.02.024

研究関連