健康長寿ラボ
前回は、DOCK2の発現量や機能が低下することにより、新型コロナウイルス感染症において重症化のリスクが上昇することを紹介しました。今回は、DOCK2が免疫細胞において担う役割について解説し、この分子が働かないことが重症化につながるメカニズムについて考えてみたいと思います。
これまでの研究から、DOCK2の多彩な役割が明らかになっています1(図1)。DOCK2が機能しない免疫細胞は、運動能が著しく抑制されており、リンパ節や感染部位に遊走することができません。また、T細胞やB細胞は、抗原を認識することにより活性化して免疫機能を発揮します。しかしながら、DOCK2が機能しないと、抗原を認識しても十分に活性化されず、T細胞やB細胞は機能を発揮することができません。抗ウイルス免疫に重要な役割を果たすI型インターフェロンの産生にも、DOCK2が不可欠であることが明らかになっています。
図1 免疫細胞におけるDOCK2の機能
ウイルスに感染すると、主に形質細胞様樹状細胞(pDC)という細胞からI型インターフェロンが血中に分泌され、ウイルス免疫にかかわる細胞の活性化を促します。新型コロナウイルスに感染した際に、I型インターフェロンの分泌量が低いと、ウイルスを効率よく取り除くことができず、症状が悪化することが知られています2。一方、DOCK2はpDCがI型インターフェロンを産生するのに必須の分子であることが分かっています3。まだ科学的に証明されたわけではありませんが、DOCK2の発現が低いと、pDCからI型インターフェロンが十分に分泌されず、ウイルスに対する免疫系が活性化されないことが、重症化の一因と考えられます。
図2. pDCにおいてDOCK2の発現が低いと、ウイルスに感染した際のI型インターフェロンの産生量が少なくなり、ウイルスに
対する免疫活性が低下する。
今回、発見された遺伝的特徴は東アジア人に特有のものですが、高齢者や基礎疾患をもつ人など、重症化リスクが指摘されている人たちにおいて、遺伝的要因とは別のメカニズムでDOCK2の発現が低下しているとすれば、DOCK2が治療や診断の普遍的なターゲットになるのではないかと思います。今後の研究の進展に注目したいと思います。