本文へ移動

研究所

Menu

プレスリリース

ホーム > 研究所 > 研究実績 > 多因子介入で認知機能改善が期待されるMCIサブグループを発見

多因子介入で認知機能改善が期待されるMCIサブグループを発見

血液バイオマーカーと遺伝情報から特徴を解明

2926年10月19日

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

研究成果のポイント

研究の概要と成果

 アルツハイマー病などの認知症の予防に、運動・栄養・認知トレーニングなどを組み合わせた非薬物多因子介入の有効性が注目されています。一方で、その効果には個人差があり、どのような遺伝的背景をもつ人が、より大きな効果が得られやすいかは明らかになっていません。

 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)研究所 メディカルゲノムセンターの木村哲晃研究員、重水大智研究部長らの研究チームは、J-MINT研究*5の参加者269人のMCIを対象にアルツハイマー病に関連する4つの血液バイオマーカーを解析し、MCIには異なる特徴をもつ2つのグループが存在することを明らかにしました(図1、グループ1および2)。さらに、これらのサブグループにおいて、18カ月間の多因子介入による認知機能への効果を比較しました。
 その結果、血液バイオマーカーの状態がより悪いグループ(図1、グループ1)において、多因子介入における認知機能の改善効果が有意に認められることを確認しました(表1)。
 さらに、全ゲノム関連解析*6を行った結果、グループ1を特徴づける4つの遺伝子多型を同定しました。そのうちの2つは、認知機能や認知症との関連が報告されている難聴原因遺伝子*7(PCDH15とATP11A)上に存在することが確認されました。また、これらの4つの遺伝子多型に臨床データを組み合わせた介入効果予測モデルを構築したところ、PCDH15とATP11A上の2つの遺伝子多型の寄与が大きいことがわかりました。このことから、グループ1を特徴づける指標となる可能性が示唆されました(図2)。

 本研究により、血液バイオマーカーと遺伝情報を組み合わせることで、多因子介入による認知機能の改善効果が期待されるMCIを特定できる可能性が示唆されました。本研究の成果は、将来的に、個人の生物学的特徴に応じて認知症予防の介入方法を選択する「個別化予防」につながる可能性があります。

図1 血液バイオマーカーに基づく、MCIグループの同定

 4つの血液バイオマーカーの測定値を用いた解析から、MCI集団が、異なる特徴をもつグループ1とグループ2に分類された。

グループ 介入/対照 人数 認知機能スコアの変化量(SD) P*
グループ1 介入群 31 0.68 (0.48) 0.0065
対照群 20 0.35 (0.49)
グループ2 介入群 138 0.65 (0.48) 0.65
対照群 131 0.59 (0.49)

表1 MCIグループにおける介入効果

*P値は年齢、性別、ベースライン時の認知機能スコアを調整した線形混合効果モデルにより算出。SD:標準偏差。介入による認知機能の改善が統計学的に有意であった項目を太字で表記。

図2 グループ1の予測モデルに使用した7因子のオッズ比

 オッズ比は、それぞれの因子がグループ1に分類されることとどの程度関連しているかを示す指標です。難聴原因遺伝子PCDH15とATP11A上の2つの遺伝子多型は、他の因子と比較してオッズ比が大きく、グループ1との関連が強いことが示されました。

研究の意義と今後の展望

 本研究で得られた知見は、正確な個別化予防戦略(プレシジョン・プリベンション)の実現に向けた重要な一歩になると考えられ、予防介入の最適化に貢献することが期待できます。

 本研究成果は、国際専門誌「Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions, a journal of the Alzheimer’s Association」に2026年10月16日付で掲載されました。なお、本研究成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業、長寿医療研究開発費、長寿科学振興財団、日本学術振興会科学研究費助成事業、厚生労働省認知症政策研究事業、鈴木謙三記念医科学応用研究財団の助成を受けて実施されました。

用語説明

  1. 血液バイオマーカー:採血した血液から、体や脳の状態を調べる指標です。本研究では、アミロイドβ42/40比、p-Tau217、NfL、およびGFAPを使用しました。アミロイドβ42/40比とp-Tau217は脳内のアミロイドの蓄積を、NfLは神経細胞やその軸索の障害を、GFAPは脳内の炎症反応を反映することが知られています。
  2. MCI:認知症ではありませんが、健康な人よりも認知機能が低下し、物忘れなどの症状がみられます。家事や仕事などの日常生活は自立して行えます。一方、認知症は日常生活に支障が出た状態です。MCIは必ずしも認知症に進むわけではありません。早い段階で介入することで、認知機能が改善し、健康な状態に戻ることもあります。
  3. 多因子介入:運動、食事、認知トレーニング、生活習慣病の管理などを組み合わせた包括的な介入法です。本研究では18カ月間、生活習慣病の管理、週1回の運動教室、栄養相談やタブレットによる認知トレーニングなどが実施されました。
  4. 遺伝子多型:同一集団内における、遺伝情報であるDNAの塩基配列の個人差のことです。
  5. J-MINT研究:65歳から85歳までのMCI高齢者を対象に、認知症予防を目的とした多因子介入プログラムの有効性を検証するランダム化比較試験です。
  6. 全ゲノム関連解析:個人のゲノム全体にわたる遺伝子多型を網羅的に調べ、病気や体質などの特徴との関連を統計学的に解析する手法です。ある特徴を持つ人と持たない人で遺伝子多型の頻度に差があるかを統計学的に検定し、有意な差が見られる多型を調べます。
  7. PCDH15は常染色体潜性遺伝非症候性難聴(DFNB23)および難聴と視覚障害を伴う症候群であるアッシャー症候群1F型(USH1F)の原因遺伝子です。また、ATP11Aは常染色体顕性遺伝非症候性難聴(DFNA84)の原因遺伝子です。(出典https://mgen.jihs.go.jp/disease/33)

研究グループ

国立長寿医療研究センター

荒井秀典 理事長

国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター

尾崎浩一 センター長/疾患ゲノム研究部長
重水大智 バイオインフォマティクス研究部長
木村哲晃 ゲノム機能解析室・研究員

国立長寿医療研究センター 研究所 研究推進基盤センター

佐藤朝巳 バイオマーカー測定室・研究員

国立長寿医療研究センター 研究所 認知症先進医療開発センター

櫻井孝 研究所長特任補佐/センター長
杉本大貴 予防科学研究部・主任研究員

里直行 分子基盤研究部長

国立長寿医療研究センター 研究所

新飯田俊平 研究所長特任補佐
J-MINT study group

名古屋大学大学院 医学系研究科 生物化学講座

中村昭範 特任教授

論文情報

リンク

お問い合わせ先

研究に関すること

国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター
バイオインフォマティクス研究部長 重水大智

TEL : 0562-46-2311(内線4153)
E-mail : daichi(at-mark)ncgg.go.jp

※(at-mark)を「@」に置き換えてください)

報道に関すること

国立長寿医療研究センター 総務部総務課 総務係長(広報担当)

TEL : 0562-46-2311(代表)
E-mail : webadmin(at-mark)ncgg.go.jp

プレスリリース