プレスリリース
~アルツハイマー病の病態に関連しうる臨床的マーカーとしての発見~
2026年06月12日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下国立長寿医療研究センター)分子基盤研究部(部長:里直行、副部長:篠原充)、脳神経外科(部長:百田洋之)、精神科(部長:安野史彦)、診断イノベーション研究部(部長:春日健作)の研究グループは東京都健康長寿医療センター、新潟大学、三重大学、大阪医科薬科大学との共同研究により、CCN1/Cyr61はヒト脳脊髄液においてβアミロイド(Aβ)量やリン酸化タウとよく相関する(注1)ことを発見し、その成果をiScienceに発表しました。
アルツハイマー病患者の脳内では、老人斑として蓄積するAβ(注2)や神経原線維変化として蓄積するタウ(注3)といったタンパク質が病気の発症に関与していると考えられていますが、それらがどのように神経細胞死に結び付くのか、またどのような分子がそこに介在するのかなど、十分には分かっておりません。
本研究では、当センター・バイオバンクに保管してある脳脊髄液を用いて、CCN1/Cyr61という分子がAβやリン酸化タウの量とよく相関することを明らかにしました。さらに東京都健康長寿医療センターで保管している剖検脳を用いて、CCN1/Cyr61は血管アミロイドや老人斑と共局在することがわかりました。
CCN1/Cyr61は以前の我々の研究(参考文献1)において、肥満・糖尿病とアルツハイマー病の合併ではじめて発現増加する遺伝子の一つです。CCN1/Cyr61は中枢ではある種のグリア細胞や血管内皮細胞から分泌され、細胞の外や脳脊髄液に出てくると考えられます。脳脊髄液は脳と接しているため、血液に比し、より脳の状態を反映しやすいと考えられます。まず、本研究では脳脊髄液中のCCN1/Cyr61を測定するために、SIMOAと呼ばれる超高感度の測定法を開発しました。その結果、通常測定で使用されるELISA(注4)ではほとんど測定できなかった脳脊髄液中のCCN1/Cyr61の濃度変化が十分に測定することができるようになりました。(図1)

図1.開発した超高感度測定系SIMOAによる脳脊髄液中のCCN1/Cyr61の濃度変化の測定
次に、当センター・バイオバンクに保管してある脳脊髄液を用いて、このCCN1/Cyr61とアルツハイマー病の病態バイオマーカーであるAβやリン酸化されたタウとの関係を調べたところ、両者は非常によく相関することがわかりました(図2)。

図2.脳脊髄液のCCN1/Cyr61はAβやリン酸化タウとよく相関する
さらにアルツハイマー病患者さんの剖検脳を用いてCCN1/Cyr61を病理組織染色(注5)したところ、CCN1/Cyr61は血管のアミロイドや老人斑とよく共局在することがわかりました。

図3.CCN1/Cyr61(緑色)は老人斑や血管アミロイド(Aβ、赤色)と共局在する
これまでの我々の動物モデルを用いた研究において、CCN1/Cyr61はアルツハイマー病の病態に何らかの形で関連していると考えられてきましたが、本研究において、やはり病態に関連しているという臨床レベルでのエビデンスが得られたと考えられます。
本研究で見つかったヒト脳脊髄液中でのアルツハイマー病バイオマーカーとの相関関係がどこまで病態を反映できるのか、疾患段階の異なる様々な患者から採取された脳脊髄液を用いて今後検証していく予定です。一方で、得られた結果はあくまで相関性であり、直接因果関係を示すようなデータではないため、それらの因果関係(CCN1/Cyr61がアルツハイマー病の病態にいかに寄与するか等)を証明するための実験などを行い、研究をすすめていく予定です。CCN1/Cyr61がアルツハイマー病の病態に寄与するのであれば、CCN1/Cyr6を阻害する薬剤が、アルツハイマー病の新しい治療薬になり得ます。
Shinohara M, Kikuchi M, Onishi-Takeya M, Tashiro Y, Suzuki K, Noda Y, Takeda S, Mukouzono M, Nagano S, Fukumori A, Morishita R, Nakaya A, Sato N. FASEB Bioadv. 2021 Mar 2;3(5):323-333. doi: 10.1096/fba.2020-00151.
国立長寿医療研究センター 認知症先進医療開発センター 分子基盤研究部
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