プレスリリース
2025年8月28日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
~ 日本独自の認知症早期発見・早期介入モデルの確立に向けた大規模実証研究 (J-DEPP研究)の成果をもとに作成 ~
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典、以下 国立長寿医療研究センター) を中心とする研究チームは、2024年1月より、本人やご家族の視点を重視した“日本独自の認知症早期発見・早期介入モデル”の構築を目的とし、全国40市町村と連携し、大規模な実証研究を行いました (図1)。
図1 大規模実証の全体像
本研究では、まず各自治体において、認知機能を評価するスクリーニング検査の実施方法や、参加者の集め方 (リクルート方法)、そして検査後に必要な方へ医療機関の受診を促す方法 (受診推奨)を検討し実施しました。
全国 (北海道、秋田、東京・神奈川、愛知、大阪、兵庫、鳥取・島根、鹿児島)、40市町村で、合計13,871名の高齢者がスクリーニング検査に参加しました。使用されたスクリーニング検査ツールは、対面式の検査からタブレットやパソコンを使って自宅で行えるものまで、多様な方法が実践されました。
参加者の募集方法(リクルート方法)については、不特定多数の住民を対象としたポスター掲示や新聞折り込みといった方法では受検率が0.003から2.4%※1でした。一方で、ダイレクトメール(DM)では4.7から15.7%、事業の場でスタッフが直接声をかけた場合は15.1から92.6%と、個別性の高いアプローチが有効であることが示されました。
スクリーニング検査の実施方法は、地域の会場に集まって受検する「会場型」と、自宅などで行う「非会場型」に分類されました。非会場型では、機器の操作が難しい等の理由で、途中で検査をやめてしまうといった課題がありました。一方、会場型はスタッフによる支援が可能ですが、人手や会場の確保など運営面での負担が大きいことがわかりました。
受診推奨を行う際には、必要以上に不安を与えないよう配慮し、かかりつけ医や専門医療機関のほか、厚生労働省のホームページの認知症に関する相談先も紹介しました。
検査を受けた方が、その後実際に医療機関を受診したかどうかを確認するため、郵送での追跡調査も実施しました。特に北海道・秋田・愛知県内の参加市町村の一部では、国立長寿医療研究センターが共通の調査票を用いて、統一された方法で調査を行いました。
図2 追跡調査の結果
2024年6月から10月に検査を受けた方のうち、調査に同意いただいた5,055名に郵送調査を実施し、2,567名から有効な回答が得られました。このうち、受診を勧められた方は1,083名で、実際に精密検査を受けたのは79名(受診率7.3%)でした (図2)。また、研究スタッフや保健師が電話や訪問、面談などで丁寧に受診を勧めた地域では、受診率が11.6から12.5%と比較的高く、「人を介した支援」の効果が示されました。
また、認知症発症/進行リスクの早期発見のスクリーニング検査をきっかけとして、病院を受診された方の中では、抗アミロイド抗体薬を含む治療や認知リハビリテーション、介護サービスの導入など診断後支援につながったケースが認められました。
一方、受診を勧められながらも検査を受けなかった方(1,004名)に理由をたずねたところ、最も多かったのは「健康状態に自信があり、自分には必要ないと感じたから」(42.2%)という回答でした (表1)。このことから、認知機能の低下を指摘されてもそれを自分ごととしてとらえていないことが、受診行動を妨げている可能性が示されました。また、自由記述では、「検査結果を見ていない」「受診を勧められた記憶がない」といった声もあり、今後は、検査結果の画面表示や郵送など本人の自覚や意思だけに頼るのではなく、医師会、地域のかかりつけ医と連携し、顔の見える関係を築いて丁寧に周知、支援を行うことが重要です。また、新聞・テレビなどのマスメディアを活用して、本人のみならず、家族や地域住民全体を巻き込んだ啓発活動を行うなど、必要な人を確実に医療や支援へつなげられるような仕組みづくりが求められます。
表1 受診推奨されたが精密検査を受診しなかった理由 (複数回答)
対象者数 1,004名 | 回答者数 |
---|---|
健康状態に自信があり、自分には必要ないと感じたから | 424 (42.2%) |
面倒になったから | 118 (11.8%) |
忘れていたから | 68 (6.8%) |
お金がかかり、経済的に負担だから | 60 (6.0%) |
近くに病院がなく不便だから | 59 (5.9%) |
病院受診をするのに不安を感じたから | 55 (5.5%) |
自分が病院に行く時間が取れないから | 46 (4.6%) |
家族など付き添いの方が病院に行く時間が取れないから | 24 (2.4%) |
体調を崩して受診できなかったから | 16 (1.6%) |
周りの人の目が気になるから | 11 (1.1%) |
その他 | 165 (16.4%) |
J-DEPP研究では、これまでの研究成果をもとに、自治体が地域で認知症発症/進行の早期発見に取り組むための実践的な「手引き(ガイド)」を作成しました (図3)。この手引きは、地域において認知症発症/進行のリスク早期発見・早期介入・診断後支援を実践する際の参考となるよう、体制準備、市民啓発、住民への周知・リクルートの仕方、認知症スクリーニング検査の実施、検査後の受診推奨、認知症カフェやピアサポート、本人ミーティングなどの支援へのつなげ方などを具体的にまとめたもので、実際に全国各地で行われた事例や工夫が掲載されています。
図3 認知症発症/進行のリスク早期発見の手引き(8.7MB)
手引きの作成にあたっては、まず全国の自治体を対象に調査を行い、認知症発症/進行リスクの早期発見に関する取り組みの現状を把握しました。その結果、約4割の自治体がすでに何らかの形で事業を実施していることがわかりました。一方で、実施にあたっての課題としては、「人手が足りない」「予算が確保できない」といった声が多いことも明らかになりました。
さらに、神戸市、松戸市、文京区といった先進的な取り組みを行っている自治体へのヒアリングも実施し、成功のポイントや運営上の工夫を手引きに反映させました。
この手引きは、どなたでも閲覧いただけるようにWeb上で公開しています。
以下のページからご覧いただけます(ページ下部の「各種情報について」までスクロールしてください):
認知症の早期発見・早期介入プロジェクト
本研究は令和5年度厚生労働行政推進調査事業費補助金(認知症政策研究事業)の支援のもと実施されています。また、データ収集にご協力いただきました研究参加者の皆様、協力自治体の皆様に心より感謝申し上げます。
国立長寿医療研究センターJ-DEPP研究事務局
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