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レビー小体型認知症の新たな遺伝子を発見

2025年3月6日

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

研究成果のポイント

概要

 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)研究所 メディカルゲノムセンターの尾崎浩一センター長らの研究グループは、レビー小体型認知症(DLB)患者と健常者合わせて6,324人の日本人を対象とした大規模なゲノムワイド関連解析を実施し、10番染色体上にある遺伝子多型がDLBのリスクになることを新たに発見しました。この遺伝的リスク多型は、日本人を含む東アジア人に特有であるとともに、神経変性疾患に関連するSEC61A2遺伝子の発現量を上昇することをも発見しました。また、血液検査などの臨床情報を詳細に調べたところ、血中酵素であるコリンエステラーゼ量との因果関係も明らかになりました。さらに、欧米の大規模ゲノム解析データと組み合わせた民族間解析によって、これまでに報告されたDLBリスク多型についても再検証しました。本研究は、日本人DLB患者を対象とした世界初の大規模ゲノムワイド関連解析の結果を示しており、本疾患の病因に関する新しい生物学的および臨床的知見を提供し、革新的な診断、治療法の開発に貢献すると期待されます。

 この研究成果は、米国の国際医科学誌「Molecular Medicine」オンライン版に、2025年3月6日付で掲載されます。

研究グループ

国立長寿医療研究センター 研究所

メディカルゲノムセンター  

疾患ゲノム研究部このリンクは別ウィンドウで開きます

 

センター長・部長

尾崎浩一(おざき こういち)

研究員

浅海裕也(あさのみ ゆうや)

特任研究員

光森理紗(みつもり りさ)

オミクスデータ統合解析室このリンクは別ウィンドウで開きます

 

研究員

森園隆(もりぞの たかし)

バイオインフォマティクス研究部このリンクは別ウィンドウで開きます

 

部長

重水大智(しげみず だいち)
研究所長室  

特任補佐

新飯田俊平(にいだ しゅんぺい)

研究の背景

 レビー小体型認知症(DLB)は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)や血管性認知症と並んで三大認知症と呼ばれ、我が国では3番目に多い認知症です。DLBの特徴はα-シヌクレインタンパク質が脳内にレビー小体と呼ばれる塊として蓄積することで、それに伴い神経細胞死が引き起こされることが知られています。しかしながら現状では効果的な治療法がない上に、AD患者よりも死亡率が高いため、DLBのより詳細な病態解明と新たな治療法の開発が強く望まれています。近年、欧米の大規模なゲノム研究により、DLBのリスク因子としてAPOE遺伝子※3SNCA遺伝子※4などの遺伝子多型が報告されています。一方、日本人を含む東アジア人集団での報告はほとんどありません。そこで本研究では、国立長寿医療研究センター バイオバンクに登録された日本人ゲノム情報を活用してDLBの新規遺伝的リスク因子の探索を実施しました。

研究成果の内容

 本研究では、国立長寿医療研究センターバイオバンクに登録されている日本人DLB患211名と認知機能正常高齢者6,113名のDNAを用いて、アジア人に特化した全ゲノムジェノタイピングプラットフォームであるアジアスクリーニングアレイにより得られた網羅的な一塩基多型(SNP)※2情報をもとに、ゲノムワイド関連解析(GWAS)※5を実施しました。その結果、19番染色体に存在する既知のAPOE座位※6と、2つの新たなDLB関連座位を同定しました(図1)。このうち10番染色体のDHTKD1遺伝子領域に存在する座位のSNP(rs138587229)はゲノムワイド有意性(P < 5 × 10-8未満)を示しました。このrs138587229は東アジア人にしかみられない民族特異的なSNPです。一方、2番染色体のrs74866774は示唆的有意性(P < 1 × 10-6)を示しました。さらに、これらのSNPによる遺伝子発現への影響を調べた結果、意外なことにrs138587229はDHTKD1ではなくその近くに存在するSEC61A2遺伝子(図2)の発現量に関与していました。SEC61A2遺伝子はDLBやADなどの神経変性疾患における異常タンパク質の蓄積を防ぐメカニズムとの関連が示唆されており、今後更なる研究によりDLBの病態解明と効果的な治療法の開発につながる可能性があります。

fig1

図1. 日本人のDLB-GWAS解析結果

fig2

図2. 10番染色体を拡大した図
rs138587229はDHTKD1座位にありSEC61A2(赤四角)はその近くに位置する

 次にGWASで得られた3つの関連座位と血液検査など臨床情報との因果関係を調べました(図3)。その結果、DHTKD1座位が血中コリンエステラーゼ(ChE)との因果関係を示しました。神経伝達物質のアセチルコリンの働きを阻害するコリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル等)が認知症治療薬として使用されていることから、同定されたDHTKD1座位の遺伝子多型は、コリンエステラーゼに作用することでDLBリスクを引き起こすと示唆されました。

fig3

図3. 3つのDLB関連座位と臨床情報との因果関係

 最後に、欧米人を対象としたGWAS結果とUKバイオバンクのゲノム解析情報を使い、民族間で共通のDLBリスク関連遺伝子座位の探索を行いました。その結果、既存のAPOESNCAの2つの座位で関連性が確認されました。

研究成果の意義

 今回、欧米の大規模コホートに基づく先行研究で得られたDLBのリスク遺伝子群にはない、日本人を含む東アジア人に特徴的な新規のDLBリスク遺伝子座位が同定されました。同研究グループは近年、日本人特異的な老年性アルツハイマー病※7のリスク遺伝子を複数同定しており、特定の人種・民族におけるゲノム解析が重要であることを示しています。また成果は、日本人認知症のクリニカルシークエンスや個別化医療等、将来期待されるゲノム医療につながる知見であり、本研究の意義は大きいと考えられます。
 本研究は、日本人のDLB-GWASとしては初めて行われたものです。今後、解析データ数をさらに増やすことで、日本人に特徴的なDLBリスク遺伝因子群のさらなる発見が期待できます。

 なお、本研究成果は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業、日本学術振興会科学研究費助成事業(KAKENHI)、長寿科学振興財団、堀科学芸術振興財団、長寿医療研究開発費の支援で実施されました。

論文情報

掲載誌

Molecular Medicine

著者

Risa Mitsumori, Yuya Asanomi, Takashi Morizono, Daichi Shigemizu, Shumpei Niida, Kouichi Ozaki

論文タイトル

A genome-wide association study identifies a novel East Asian–specific locus for dementia with Lewy bodies in Japanese subjects.
DOI: 10.1186/s10020-025-01115-7.このリンクは別ウィンドウで開きます

用語解説

問い合わせ先

報道に関すること

国立長寿医療研究センター 総務部総務課 総務係長(広報担当)
TEL:0562-46-2311(代表)
E-mail: webadmin@ncgg.go.jp

研究に関すること

国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター
尾崎浩一(おざき こういち)
TEL:0562-44-5651(内線4154)
E-mail:ozakikk@ncgg.go.jp

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