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ホーム > 研究所 > ニュース&トピックス > 鈴木隆雄理事長特任補佐の論文が International Journal Osteoarchaeology に掲載されました
-日本の奈良時代から平安時代(7世紀から10世紀)の人骨に見出された「前腕のマデルング型変形を伴う多発性骨軟骨腫」と思われる症例について-
超高齢社会の中で、骨の老化(骨粗鬆症や骨折など)が問題となっています。この論文は、日本の鎌倉市にある長谷小路周辺遺跡から発掘された奈良時代から平安時代(7世紀から10世紀頃)の成人男性骨格に見られた、両側の膝関節部分(大腿骨遠位端、脛骨近位端および腓骨)を中心に複数凸状の凸状の隆起性骨病変が存在し、さらに右の前腕骨(橈骨と尺骨)には著しい弯曲と短縮が認められました。病変の形態、分布、多くの骨疾患との鑑別診断を経て、この個人は多発性骨軟骨腫とそれに伴うマデルング型骨変形を患っていたという、非常にまれな症例であることが推定されました。前腕の変形は成長板障害に起因する二次的な後天性マデルング型変形症と一致しています。
本例のように複数の骨に比較的大きな骨腫瘍塊を呈する骨軟骨腫は比較的まれな疾患で、さらに前腕の二次的な変形症を有する例は世界的にも珍しい症例です。この病気は致死的な病気ではないのですが、人生の長い間にわたり、両膝の変形や前腕の変形・短縮など、日常生活にはかなり大きな不便を抱えていたと推定されます。わが国では3,000年以上も前の縄文時代の人骨で長期間四肢のマヒにより長い間寝たきりの状態であったと推定される人骨も見つかっており、今回報告した例も合わせ、健常者にとっても必ずしも生存が容易ではなかった昔の時代から、障害を持った方を介護し、家庭や地域社会で受け入れていたことがうかがわれる点からも、興味ある症例であったと思われます。今回報告した例は、アジア太平洋地域としてはもっとも古い可能性があり、世界的に見ても3例目という珍しい報告例となっています。
A Probable Case of Multiple Osteochondromas with Madelung-Type Deformity in Human Remains From the 7th to 10th Centuries in Japan.
Takao Suzuki1 | Hiroko Hashimoto2 | Hirofumi Matsumura3
International Journal of Osteoarchaeology
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/oa.70023
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