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指タッピング運動を計測したデータから軽度認知障害者を高い精度で分類することに成功

 

2025年4月3日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
マクセル株式会社

指タッピング運動を計測したデータから軽度認知障害*1者を高い精度で分類することに成功
AI技術を適用し、認知症リスクの早期発見・早期治療支援の実現をめざす


 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典/以下、国立長寿医療研究センター)とマクセル株式会社(取締役社長:中村啓次/以下、マクセル)は、株式会社日立製作所(以下、日立)とともに、各機関で研究資金を出資した共同研究において、磁気センサを用いて手指の巧緻運動(指タッピング運動*2)を定量化する技術にAI技術を用いることにより、高い精度で健常高齢者と軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment/以下、MCI)*1者を分類することに成功しました。

 近年、日本をはじめその他の国々では高齢化が進み、認知症者数は年々増加しています。
 MCIは、認知症と診断される一歩手前の状態であり、放置すると認知症に進行することが多いですが、適切な予防をすることで健常な状態に戻る可能性があります。MCIから正常な状態に回復する人の割合は1年で16~41%、MCIから認知症に進行する人の割合は1年で5~15%とされています。(日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」)

 認知症のリスクを早期に発見することは、認知症の進行を遅らせ、認知症者数を減らすために、とても重要です。現在、認知症に関する脳画像検査、脳脊髄液・血液バイオマーカーの研究・開発が進んでいますが、被験者への経済的、身体的負担、検査や解析に要する時間などの課題があります。一方、被験者の負担の少ない検査方法として、問診・観察を中心とした神経心理学的検査が多く活用されていますが、検査日や時間帯によって結果が変動するなどの課題が知られています。そのため、精度が高く、被験者への負担が少ない簡便なスクリーニング検査を行うことができれば、認知症リスクの早期発見につながり、早期に介入することが可能となります。この仕組みが広まれば、健康寿命の延伸、医療費や介護費の削減にも貢献できると考えられます。

 これまで国立長寿医療研究センターと日立は、2016年に「アルツハイマー型認知症(Alzheimer's Dementia/以下、AD)に特有の指タッピング運動パターンの抽出」の研究成果を発表しました。その後、その枠組みにマクセルが加わって、2022年、「Finger Tapping Test for Assessing the Risk of Mild Cognitive Impairment」の研究成果を発表し、MCI者の早期発見に向けたさらなる臨床研究を継続してきました。2019年にマクセルが製品化した「磁気センサ型指タッピング装置UB-2(非医療機器)」を用いて多くの被験者の協力のもと、MCI者の指タッピング運動パターンの入力データに新たに日立が開発したAI技術を適用することで、高い精度で高齢健常者とMCI者を分類することに成功しました (F1*3値 0.795 、再現率*4 0.778、適合率*5 0.814)。
 AD患者と健常高齢者を分類するモデルをAIに取り入れることで、健常高齢者とMCI者を分類しやすくしました。
 この技術により、医療現場だけでなく、高齢者施設や居宅、健康診断や自治体の健康イベントなどさまざまな非医療現場においても、手指の運動を計測するだけで、非侵襲的にMCI者を信頼性高く早期発見することができます。

 成果は、Medical & Biological Engineering & Computingこのリンクは別ウィンドウで開きますに論文が掲載されています。

 早期スクリーニング検査*6でMCI者を発見することは、自らの変化に対して早い段階で気づくことにつながり、適切な治療開始に役立ちます。

 なお、本研究は、国立長寿医療研究センターの倫理審査委員会の承認を得て実施されました。

商標

記載の会社名、製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。

本研究に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター [加賀谷副院長室]

  • 電話:0562-46-2311
  • E-mail:rehab@ncgg.go.jp

マクセル株式会社 新事業統括本部

報道機関お問い合わせ先

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター [加賀谷副院長室]

  • 電話:0562-46-2311
  • E-mail:rehab@ncgg.go.jp

マクセル株式会社 コーポレート・コミュニケーション本部 [担当:岡田、片峯]

〒108-8248 東京都港区港南二丁目16番2号 電話:03-5715-7061 (直通)

以上

資料

認知症に関する補足

 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」によると、軽度認知障害MCIから正常な状態に回復する人の割合は1年で16~41%、MCIから認知症に進行する人の割合は1年で5~15%とされています。

MCIから軽度認知症への移行率:5から15%/年、MCIから健常者への回復率16から41%/年

統合型ランダム・フォレストを用いた軽度認知障害者の分類モデル

 通常、MCI者を検出するには、MCI者と正常対照(Normal Controls/以下、NC)者のデータを用いて分類モデルを生成します。しかし、今回のモデルでは、MCI者のデータに加えて、AD患者のデータも併用することで、分類精度を向上させました。その手法は以下の通りです。

 MCIは、臨床的に認知症の前段階にあり、NCとADの中間的な症状を示します。同様に、指タッピング運動もNC、MCI、ADの順に悪化する傾向を示します。そのため、NCとADの分類モデルを生成し、その閾値をNC側に近づけるように調整すれば、MCIを分類することができます。上記のモデルを補助的に用いることで、MCIの分類精度を向上させました。
 具体的には、図1に示すように、NC群とMCI群を分類するランダムフォレストモデル(主モデル)に、NC群とAD群を分類するランダムフォレストモデル(補足モデル)を統合した新しいモデル(統合モデル)を作成します。ランダムフォレストとは、機械学習の手法の1つで、複数の決定木*1の分類結果から多数決で1つの分類結果を出力します。主モデルは、MCIとNCを分類するためにランダムフォレストによって生成されたN1個の決定木の集合です。N1,MCIとN1,NCはそれぞれMCIとNCを決定する決定木の数です。N1,MCI > N1,NCであれば、MCIと判定されます。同様に、補足モデルは、ADとNCを分類するためにランダムフォレストによって生成されたN2個の決定木の集合です。N2,ADとN2,NCは、それぞれADとNCを決定する決定木の数です。N2,AD > N2,NCであれば、ADと判定されます。補足モデルはADとNCの分類モデルなので、ADよりも症状がNCに近いMCIを正確に検出するためには、陽性(患者)として検出される確率を高くなるように調整する必要があります。そこで、N2,ADに陽性検出定数α > 1.0を乗算した上で、N2,NCと比較します。次に、主モデルと補足モデルの決定木の集合を結合して、統合モデルを生成します。この際、N2,ADとN2,NCに補足モデル影響定数β > 0を乗算して、主モデルに対する補足モデルの影響の大きさを調整します。これらの値を、それぞれ、主モデルのMCIの決定木の数N1,MCIと、NCの決定木の数N1,NCに加えます。

 以上より、統合モデルにおいて、MCIの決定木の数NMCIとNCの決定木の数NNCは次のように計算されます。NMCI > NNCのときにMCIと分類されます。

図1 統合型ランダムフォレストによるMCI群とNC群(正常対照)の分類

指タッピング運動から軽度認知障害者の早期スクリーニングを実現

 スクリーニングにおいて、図2に示すように、左手のみ、右手のみ、両手同時、両手交互の4つのパターンの指タッピング運動を計測します。
 指タッピング運動は、15秒間、30~40mmの開閉幅を保ちながら、親指と人差し指をできるだけ早く、開閉を繰り返します。本計測から得られる指タッピング運動データを、統合型ランダムフォレストを用いたモデルに入力することで、MCI者を分類します。
 また、図3に、正常対照者、MCI者、AD患者の4つの計測パターンの指タッピング運動データの例を示します。
 これらの指タッピング運動データを、統合型ランダムフォレストを用いたモデルに入力することで、MCI者を分類します。
 今回の開発モデルでは、正常対照者とAD患者で指タッピング運動に明確な違いがあることを利用して、分類精度の向上に寄与しました。

図2 指タッピング運動の計測

図3 4種類の指タッピング運動の代表的な波形

以上


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