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ビタミンDの骨格筋に対する新たな作用を発見―ビタミンD欠乏が骨格筋内の脂肪蓄積を促進する可能性―

2024年4月1日

研究成果のポイント

概要

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下「国立長寿医療研究センター」)運動器疾患研究部の細山徹副部長を代表とする研究グループは、同センターのロコモフレイルセンターおよび整形外科部、国立大学法人名古屋大学(愛知県名古屋市)、国立大学法人東京大学(東京都文京区)、松本歯科大学(長野県塩尻市)、医療創生大学(福島県いわき市)、国立大学法人九州大学(福岡県福岡市)との共同研究で、ビタミンDが骨格筋内に蓄積する脂肪組織の起源である間葉系前駆細胞(MPs)の脂肪細胞への分化を抑制すること、ビタミンD欠乏が骨格筋内の脂肪蓄積を促進する可能性があること、などを遺伝子組換えマウスや培養細胞などを用いて明らかにしました。本研究は、高齢者の骨格筋で観察され筋質低下を導く異所性脂肪(IMAT)形成にビタミンDが関与する可能性を示したはじめての報告です。筋質低下は高齢者疾患であるサルコペニア(骨格筋減弱症)との関連性が指摘されていることから、本研究の成果はサルコペニアの病態生理解明や新しい予防・治療法の開発につながると期待されます。

この研究成果は、老年学分野の国際専門誌「Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle」に、2024年3月27日付でオンライン掲載されました。

研究の背景

加齢に伴う骨格筋減弱症であるサルコペニアは、超高齢社会を迎えた我が国において喫緊の対策課題です。しかし、サルコペニアの詳しい病態生理は明らかになっておらず、本疾患の予防や治療の標的となる分子も同定されていません。

高齢者の骨格筋では、健康な若者にはない異所性の脂肪蓄積が見られます(図1)。この骨格筋内脂肪蓄積(IMAT)※1は、「筋質の低下」を引き起こすことから、近年サルコペニアとの関わりが指摘されています。すなわち、IMATの形成機構が明らかになれば、サルコペニアの病態生理解明や新しい予防・治療法の開発に結び付きます。

図1:高齢者の骨格筋内には脂肪組織が蓄積し、その割合は加齢に伴って増加する。

研究の内容

研究グループは、筋細胞とそれ以外の骨格筋構成細胞とでビタミンD受容体(VDR)の発現を比較し、IMATの起源である間葉系前駆細胞(Mesenchymal Progenitor Cells: MPs)※2においてVDRが高発現していることを見出しました(図2)。このことは、非筋細胞であるMPsがビタミンDの新しい標的細胞であることを示唆しています。

図2:マウスの骨格筋から単離した間葉系前駆細胞ではビタミンD受容体が高発現している。

つぎに、マウス骨格筋から単離したMPsを用いて脂肪分化に対するビタミンDの作用を検討しました。その結果、ビタミンDが転写因子Runx1の発現制御を介してMPsの脂肪細胞への分化を抑制することがわかりました(図3)。これらの結果は、ビタミンDが従来から標的とされてきた筋細胞(筋線維)※3だけでなく別の骨格筋構成細胞にも作用し、その働きの一つがMPsの脂肪細胞分化の抑制であることを示しています。

図3:間葉系前駆細胞の脂肪細胞分化はビタミンDで阻害される。

さらに研究グループは、(1)ビタミンD欠乏飼料を与えた野生型マウス、(2)MP特異的にVDRを欠損したコンディショナルノックアウトマウス※4、の2種類の動物モデルを用いて、ビタミンD欠乏やMPにおけるビタミンDシグナルの阻害がIMAT形成に関与する可能性について検証しました。その結果、ビタミンD欠乏飼料を与えた老齢マウスと、腱切除により筋萎縮を誘導したMP特異的VDR欠損マウスにおいてIMAT形成が確認されました(図4)。これらの結果は、ビタミンD欠乏やビタミンDシグナル阻害が骨格筋内の脂肪蓄積に関与することを強く示唆しています。

図4:ビタミンD欠乏食を与えたマウスの骨格筋には脂肪蓄積が見られる。

研究成果の意義

IMATの形成は筋質低下を導く極めて重要な要因であり、その機構解明はサルコペニアに対する予防法や治療法の開発に結び付きます。今回、私たちの研究グループは、培養細胞と動物モデルを用いた検証からIMAT形成におけるビタミンDの重要性とその作用機序の一端を明らかにしました。高齢者においてビタミンDが不足しがちになることは広く知られており、本研究により、高齢者のIMAT形成やサルコペニア発症にビタミンD不足が深く関与する可能性が示されました(図5)。今後ヒトでの詳細な検証が必要ではありますが、本研究の成果は骨格筋恒常性維持におけるビタミンDの新たな一面を提示しており、サルコペニアの予防法や治療法の開発に向けた重要な知見となることが期待されます。

図5:ビタミンDが減少した高齢者では骨格筋内に脂肪が蓄積し易くなり、サルコペニア発症リスクが高まっている可能性がある。

本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業および国立長寿医療研究センターの長寿医療研究開発費、全薬工業株式会社(東京都文京区)の支援のもとに実施されました。

論文情報

掲載誌:Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle

著者: Tohru Hosoyama, Minako Kawai-Takaishi, Hiroki Iida, Yoko Yamamoto, Yuko Nakamichi, Tsuyoshi Watanabe, Marie Takemura, Shigeaki Kato, Akiyoshi Uezumi, Yasumoto Matsui.

論文タイトル:Lack of vitamin D signaling in mesenchymal progenitors causes fatty infiltration in muscle.

DOI: 10.1002/jcsm.13448このリンクは別ウィンドウで開きます

用語解説

研究関連