プレスリリース
2026年9月18日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(荒井秀典理事長)研究所メディカルゲノムセンターの山川明子研究員、重水大智研究部長らのグループ※は、これまでJ-CHS診断基準*1に基づいて分類したフレイル*2患者と健常高齢者を対象に、フレイルに関連する複数のバイオマーカー候補を同定してきました。
本研究では、対象者をフレイル患者82名、プレフレイル者*325名、健常高齢者61名の計168名に拡大し、臨床データ、血液検査データ、老化関連因子測定データ(ELISA法*4)、網羅的遺伝子発現データ(RNAシークエンス*5)の統合解析を行いました。その結果、臨床データから得られるSMI(四肢骨格筋量指数)と、老化関連因子であるアペリンとGDF15の3つが、フレイルの判別に有用なバイオマーカー候補であることを再検証しました。
さらに、これら3つのバイオマーカー候補について、将来的な筋力低下との関連を検討した結果、SMI、アペリン、GDF15を用いることで、将来的な筋力低下のリスク評価にも活用できる可能性が示されました。
本研究には、より大規模な集団を用いたさらなる検証が必要ですが、SMI、アペリン、GDF15を活用したフレイルの早期発見と、将来的な機能低下のリスクに基づく予防・介入の実現に向けた重要な知見となることが期待されます。
フレイルは、加齢に伴う筋肉量や筋力の低下、身体機能の低下によって生じる心身の虚弱状態を指し、高齢社会の進展に伴い重要な健康課題となっています。フレイルは早期に発見し、適切な運動や栄養などの介入を行うことで、状態の改善や重症化の予防が期待されるため、早期発見と予防が重要です。
現在、フレイルの診断は身体機能の測定や問診などに基づいて行われていますが、より簡便かつ客観的な診断指標として、血液などから測定可能なバイオマーカーの活用が注目されています。近年、フレイルと関連を示すバイオマーカーが複数報告されていますが、その多くは現在のフレイル状態を判別するための指標であり、将来的な身体機能低下のリスク評価に活用できるバイオマーカーについては、十分に明らかになっていません。
そこで本研究では、フレイルの診断基準であるJ-CHS基準の5項目に着目し、現在のフレイル状態を判別するだけでなく、将来的なフレイル関連の機能低下を予測できるバイオマーカーの同定を目指しました。
本研究では、国立長寿医療研究センターのバイオバンクおよびロコモフレイルセンターに登録されたフレイル患者82名、プレフレイル者25名、健常高齢者61名の計168名を対象に、臨床データ、血液検査データ、ELISAデータ、網羅的遺伝子発現データを用いた統合解析を行いました。その結果、SMI、アペリン、GDF15の3つが、フレイルの判別に有力なバイオマーカー候補であることを再検証しました。
さらに、これら3つのバイオマーカー候補がJ-CHS診断基準の5項目である「意図しない体重減少」、「筋力低下」、「疲労感」、「歩行速度の低下」、「身体活動の低下」のうち、どの項目と関連するかを調べました。その結果、SMIは「筋力低下」、「歩行速度の低下」、「身体活動の低下」の3項目と関連し、アペリンは「意図しない体重減少」、「筋力低下」、「疲労感」の3項目と関連することが示されました。また、GDF15は「意図しない体重減少」と「筋力低下」の2項目と関連しました(図1)。これらの結果から、SMI、アペリン、GDF15の3つのバイオマーカー候補を組み合わせることで、J-CHS診断基準のすべての項目をカバーできる可能性が示されました。

図1. SMI、アペリン、GDF15とJ-CHS診断基準項目との関連
縦軸はバイオマーカー候補、横軸は5つのJ-CHS基準項目を示す。各点は対象者を表し、J-CHS基準項目に対して「該当」(橙色)と「該当しない」(緑色)を表す。アスタリスクは「該当」と「該当しない」の間に統計的な有意な差が認められたことを示し、NSは統計学的に有位な差が認められなかったことを示す。
研究グループはさらに、これらのバイオマーカー候補を用いて、将来的な機能低下のリスク評価の可能性について検証しました。健常高齢者の縦断データ(時系列データ)のうち、「意図しない体重低下」と「筋力低下」について追跡データが得られたため、この2項目を対象に解析を行いました。その結果、SMI、アペリン、GDF15は、将来的な「筋力低下」のリスク評価に活用できる可能性が示されました(図2)。一方、「意図しない体重低下」については、解析対象となるデータ数が限られていたため、現時点では明確な予測能は確認されませんでした。

図2.SMI、アペリン、GDF15の「筋力低下」の予測能
縦軸は筋力低下の進行が認められない割合、横軸は経過日数を示す。0日目では、すべての対象者が健常高齢者に該当する。対象者を筋力低下のリスクが高い群(桃色)と低い群(水色)に層別化し、両群の経時的な変化を比較した。
今後、対象者数や追跡データを拡大することで、「意図しない体重低下」に加え、「疲労感」、「歩行速度の低下」、「身体活動の低下」についても、将来的な変化を評価できる可能性があります。これらの知見は、将来的な機能低下のリスクを早期に把握し、フレイルの予防や適切な介入につなげるための基盤になることが期待されます。
本研究では、これまでの研究成果について、対象者数を拡大して再解析することで、SMI、アペリン、GDF15の3つがフレイルの判別に有用なバイオマーカー候補であることを再検証しました。さらに、これら3つのバイオマーカー候補を用いることで、J-CHS基準項目の一つである「筋力低下」について、将来的なリスクを評価できる可能性を示しました。
フレイルの予防では、現在の状態を把握するだけでなく、将来どのような機能低下が生じる可能性があるかを早期に把握することが重要です。本研究で得られた知見は、バイオマーカーを用いて将来的な機能低下のリスクを評価し、そのリスクに応じた予防・介入につなげる予測型フレイル予防の実現に向けた一歩となることが期待されます。
一方で、本研究は対象者数および縦断的な追跡データが限られているため、今後はより大規模な集団を対象とした検証や、長期的な追跡による再現性の確認が必要です。
本研究成果は、国際専門誌「npj Aging」に2026年9月17日付で掲載されました。なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)長寿科学研究開発事業、国立高度専門医療研究センター、長寿医療研究開発費、日本学術振興会科学研究費助成事業、厚生労働科学研究費補助金の助成を受けて実施されました。
「意図しない体重減少」、「筋力低下」、「疲労感」、「歩行速度の低下」、「身体活動量の低下」の5項目で構成される、フレイルの評価基準です。それぞれの項目について該当するかどうか判定し、その合計点(J-CHSスコア)に基づいて、健常、プレフレイル、フレイルに分類されます。
加齢に伴って筋肉量や筋力、身体機能などが低下し、心身の活力が低下した状態を指します。J-CHSスコアが3点以上の場合、フレイルと定義されます。
フレイルに至る前段階の状態を指します。J-CHSスコアが1点または2点の場合、プレフレイルと定義されます。
次世代シークエンサーを用いて、遺伝子転写産物であるmRNAの配列情報を網羅的に読み取り、得られた配列から遺伝子の発現量を測定します。本研究では血液由来のmRNAを用いました。
抗原抗体反応と酵素反応を組み合わせて、サンプル中の特定のタンパク質や抗体などの量を測定する方法です。本研究ではGDF15、BDNF、アディポネクチン、アペリン、プログラニュリン、TNFα、FGF21、CXCL9、CXCL10、eNAMPTの10項目の老化関連因子を対象としました。
細山徹 運動器疾患研究部・副部長
竹村真理枝 ロコモフレイル診療部・医長
新飯田俊平 研究所長特任補佐
佐竹昭介 フレイル研究部・部長/老年内科・部長
国立長寿医療研究センター メディカルゲノムセンター
部長 重水大智
TEL : 0562-46-2311(内線4153)
E-mail : daichi(at-mark)ncgg.go.jp
※(at-mark)を「@」に置き換えてください)
国立長寿医療研究センター 総務部総務課
TEL : 0562-46-2311(代表)
E-mail : webadmin(at-mark)ncgg.go.jp
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