プレスリリース
2026年3月17日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下、国立長寿医療研究センター)医療経済研究部の大寺祥佑副部長らの研究グループは、軽度認知障害(MCI)の高齢者を対象に、運動・栄養・認知トレーニング・血管リスク管理を組み合わせた多因子介入プログラム(「J-MINTプログラム」)について、医療費・介護費・家族などのインフォーマルケア費用を含めた“社会的視点”で長期の費用対効果を評価しました。
その結果、「J-MINTプログラム」は通常ケア(血管リスク管理のみ)に比べて1人あたり約45万円の費用削減とQALY注1(Quality – Adjusted Life Year, 生活の質で調整した生存年)の増加が見込まれ、費用を抑えながら健康成果も改善する可能性が示されました。
現在認知症の人の数は世界で約5,700万人であり、2050年には1億5,000万人を超えると予測されており、深刻な公衆衛生課題となっています。医療費だけでなく、介護費用、家族による介護負担も大きく、日本のような超高齢社会ではその影響はさらに深刻です。
近年、複数の生活習慣や血管リスクに対して同時に働きかける「多因子介入」が注目されていますが、日本人のMCI高齢者を対象とした多因子介入による長期的な費用対効果の検証は十分ではありませんでした。
本研究では多施設ランダム化比較試験「J-MINT」注2の結果をもとに、65歳から100歳までを想定したコホート状態遷移モデル注3を用いて、将来の認知症の発症・進行、死亡を推定し、費用、QALYを推計しました。
分析の結果、J-MINTプログラムは通常ケアと比べて、65歳から100歳までの約35年間で、1人あたり約45万円の費用削減と、QALY 0.08の増加が見込まれました。費用が下がり、効果(QALY)が上がるため、評価としては「優位(dominant)」となり、J-MINTプログラムは通常ケアに比べて費用対効果がよいことがわかりました。「下図参照」
感度分析によって前提条件を変えても、全体としてJ-MINTプログラムが有利という結果は概ね保たれました。
一方で、追跡期間が短い(例:5年・10年)場合や、認知症発症リスクが低い集団に広く適用する場合には、費用が上回り得ることも示され、長期で評価すること、対象集団のリスクの見立てが重要であることが示唆されます。
加えて、J-MINT試験で介入の効果が大きい可能性あると示されたサブグループ(例:APOE ε4保有者、運動への高い参加率)に焦点を当てると、費用削減とQALY増加がさらに大きくなる可能性が示されました。ただし、APOE ε4注4の同定には検査などの追加コストが伴い得るため、実装時にはスクリーニング費用も含めた評価が今後の課題です。

(左図)J-MINTプログラムと通常ケアの長期的な総費用の比較(右図)J-MINTプログラムと通常ケアのQALY(生活の質を考慮した生存年)の比較
本研究は、MCIの段階で行う多因子介入プログラム(「J-MINTプログラム」)が、将来の認知症に伴う医療・介護・家族介護の負担を抑えつつ、QALYを改善し得る費用対効果の高い選択肢となる可能性を示しました。
一方で本研究は、試験期間内での認知症発症を直接測るのではなく、Hisayamaスコアの変化から長期効果を推計するなど、長期効果の仮定に不確実性があります。
また、プログラムを社会実装する場合、参加率、利用可能な資源、地域差などの要因で、介入効果自体が変わる可能性もあります。
今後は、自治体や医療・介護の現場での導入を見据え、実環境での効果と費用対効果の検証、認知症の発症までを直接観察できるような長期フォローアップの仕組みづくりが重要になると考えられます。
本研究成果は、2026年1月1日に、専門学術誌「Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」に掲載されました。
国立長寿医療研究センター
老年学・社会科学研究センター 医療経済研究部
TEL : 0562(46)2311 (代表) E-mail:healthecon(at-mark)ncgg.go.jp
※(at-mark)を「@」に置き換えてください)
国立長寿医療研究センター 総務部総務課
TEL : 0562-46-2311(代表)
E-mail : webadmin(at-mark)ncgg.go.jp
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