高い開放性、勤勉性は、高齢者の要介護発生リスクの低下と関連する
-長期縦断調査(NILS-LSA)により、自立を支える心理的リソースを解明―
2026年02月24日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典、以下「国立長寿医療研究センター」)老化疫学研究部の西田裕紀子副部長らの研究グループは、地域在住の高齢者を最長約22年間追跡した調査データに基づき、パーソナリティ(個人の行動や思考を特徴づける特性)が将来の要介護発生リスクに与える影響を明らかにしました。
かつて、パーソナリティは生涯を通じてあまり変わらないものと考えられていました。しかし、近年の心理学研究では、人生後半期においても、社会や家庭における役割の遂行、人生において直面するさまざまな出来事の経験等を通じて、柔軟に変容し得ることが示されています 。本研究は、この変容の可能性を持つパーソナリティが、高齢期の自立維持において重要な役割を果たすことを科学的に解明したものです。
本研究成果は、2026年2月1日付で国際老年医学雑誌『Experimental Gerontology』のオンライン版に掲載されました。
研究の背景
超高齢社会において、高齢者の自立維持と要介護状態の予防は喫緊の課題です 。これまで、パーソナリティは認知機能や身体機能など、様々な心身の健康指標と関連することが報告されてきました。しかしながら、日本人高齢者の長期的な要介護状態の発生とパーソナリティがどのように関連するかについては、十分に解明されていませんでした 。
研究の方法
本研究では、「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学調査(NILS-LSA)」(
注1)に参加した、地域在住の65歳から84歳の男女1,003名を解析対象としました。なお、ベースライン時(
注2)にすでに要介護認定(要介護1以上)を受けていた方、および逆因果(健康状態の変化がパーソナリティに影響を与えること)の可能性を考慮して、ベースラインから2年以内に要介護認定を受けた方は除外しています 。これらの対象者を最長21.8年(平均12.2年)にわたり追跡し、要介護認定の発生について調査しました。
ベースラインのパーソナリティの評価には、現代の心理学で最も広く用いられている「五因子モデル(ビッグファイブモデル)」を測定するNEO Five Factor Inventory(NEO-FFI)(
注3)を用いました。NEO-FFIは、60項目からなる自記式の調査票で、人のパーソナリティを以下の5つの主要な次元で捉え、評価するものです(各スコアの得点範囲12-60点)。
- 神経症傾向(Neuroticism): 心配性で傷つきやすい傾向
- 外向性(Extraversion): 社交的で活動的、積極的である傾向
- 開放性(Openness): 好奇心が強く、新しい経験を好む傾向
- 調和性(Agreeableness): 思いやりがあり、他者に対して親切で協力的である傾向
- 勤勉性(Conscientiousness): 真面目で、計画的である傾向
研究の結果と考察
Cox比例ハザードモデル(
注4)を用いた解析の結果、基本属性(年齢、性別、教育歴等)や、ベースラインの既往歴、生活習慣、握力、認知機能等を考慮してもなお、パーソナリティの2つの特性が要介護認定リスクを有意に低下させることが明らかとなりました(図)。
- 開放性(好奇心が強く、新しい経験を好む傾向):スコアが1標準偏差上がるごとに、要介護認定リスクが12%低下(ハザード比0.88)していました。
- 勤勉性(真面目で、計画的である傾向):スコアが1標準偏差上がるごとに、要介護認定リスクが9%低下(ハザード比0.91)していました。
- 神経症傾向、外向性、調和性については、要介護認定リスクとの有意な関連は見られませんでした。

開放性の高さは、ヘルスリテラシー(健康情報を積極的に収集・活用する能力)や、認知予備力(脳老化に対する適応力や蓄え)と関連することが知られており、これらの知的・心理的資源が、加齢に伴う心身機能の低下を抑制させる可能性があります。一方、勤勉性の高さは、自己管理能力につながり、規則正しい運動や適切な服薬、バランスの取れた食事といった健康維持行動を継続する傾向(高いアドヒアランス)と関連することから、将来の要介護を予防すると考えられます。
結論および今後の展望
本研究により、パーソナリティがヘルシー・エイジングを支える重要な心理的リソースとなる可能性が示されました。パーソナリティは人生後半期においても変容し得るものであり、本研究の結果は、開放性、あるいは勤勉性を高く維持するような意識や生活での工夫が、高齢期の自立維持に寄与する可能性を示唆しています。
また、今後は、個人のパーソナリティに応じた個別化対応の展開が期待されます。例えば、開放性が高い方には、より好奇心を刺激する新たな社会参加プログラムを提案する、勤勉性が低い方にはIT活用、あるいは家族の協力を得て計画を実行できるように補完する仕組みをつくる、など、個人の強みを活かし、弱みを補うアプローチが、より効果的な介護予防に繋がると考えられます。
注釈
- 注1:「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学調査(NILS-LSA)」:センター近隣の地域から無作為に選ばれた方々を対象として、加齢の過程や老年病の発症要因を明らかにし、その予防法を見つけることを目的とするコホート研究です。1997年の開始から約30年間にわたり、約4000名の参加者を長期的、継続的に追跡し、医学、心理、栄養、運動生理学など多彩な分野の調査研究を実施しています。
- 注2:ベースラインの定義:本研究におけるパーソナリティ調査は、NILS-LSAの第2次調査(2000-2002年)および第5次調査(2006-2008年)で実施されました。そのため、いずれかの調査に参加し、初めてパーソナリティ調査を行った時点を本研究のベースラインとしています 。
- 注3:NEO-FFIの出典:下仲順子, 中里克治, 権藤恭之, 高山緑 (1999). NEO-PI-R / NEO-FFI使用マニュアル(成人・大学生用). 東京:東京心理.
- 注4:Cox比例ハザードモデル:時間の経過とともにイベント(本研究では要介護認定)が発生するリスクを解析する統計手法。年齢や既往歴など、他の要因の影響を考慮した上で、特定の要因(本研究ではパーソナリティ)がイベント発生のリスクにどの程度寄与しているかを算出します。ハザード比は、特定の要因が1単位変化した際に、イベントのリスクが何倍になるかを示し、1より小さければリスクが低い(保護的である)ことを意味します。
掲載論文情報
- 掲載誌
Experimental Gerontology
- 著者
Yukiko Nishita, Chikako Tange, Sayaka Kubota, Shu Zhang, Mana Tateishi, Fujiko Ando, Hiroshi Shimokata, Rei Otsuka:
- 論文タイトル
Higher openness and conscientiousness are associated with lower risk of long-term care needs: A 22-year follow-up of community-dwelling older adults in Japan.
- URL
https://doi.org/10.1016/j.exger.2026.113040
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