プレスリリース
2025年12月5日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知的フレイルは、加齢に伴う筋肉量・筋力の低下を中心とした身体的虚弱(フレイル)と、軽度認知機能障害が併存する状態を指します。早期診断・早期介入により改善が期待されるものの、血液による客観的な診断法は確立されていません。
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(荒井秀典理事長)研究所と広島大学大学院の研究グループ※は、認知的フレイル患者43名と健常高齢者44名から採取した血液を用いて、臨床データ、網羅的遺伝子発現データ[RNAシークエンス(*1)]、老化関連因子測定データ[ELISA法(*2)]、メタボロームデータ(*3)を統合した解析を実施しました。
その結果、GDF15、BDNF、アディポネクチン、ミリスチン酸、ニコチンアミド、γ―ブチロベタインの計6種類の血中バイオマーカー候補を新たに同定しました。さらに、機械学習アルゴリズムの一つであるランダムフォレスト(*4)による解析から、特にGDF15、ミリスチン酸、ニコチンアミドの3つが認知的フレイル診断に有用であることが明らかになりました。これらは、フレイル診断基準であるJ-CHSスコアや認知症の評価指標(MMSE-J、MoCA-J)とも強い相関を示しました。
なかでもミリスチン酸は、最も高い重要度指数(ジニ係数)を示し、診断マーカーとしての有用性が示唆されました。栄養素として補充可能である点から、将来的な治療介入への応用も期待されます。
本研究は、認知的フレイルを対象とした統合的アプローチにより得られた新たな知見であり、早期診断・早期介入の実現に向けた大きな一歩になるものです。
フレイルは、加齢に伴う筋肉量・筋力の低下を中心とした心身の虚弱状態を指し、高齢社会の進展に伴ってその患者数は年々増加しています。高齢者に多い認知症も同様に増加しており、近年は、身体的フレイル(筋力低下、体重減少、歩行速度の低下、疲れやすさ、身体活動の低下など)と軽度認知機能障害が併存する「認知的フレイル」が注目されています。
身体的フレイルや軽度認知機能低下は、早期診断と適切な介入により改善が期待され、死亡リスクや要介護リスクを低減できることが知られています。しかし、現在の診断は、身体機能測定や認知機能検査に依存しており、血液検査に基づく簡便かつ客観的な診断法は確立されていません。
こうした課題を背景に、本研究グループは、遺伝子発現、代謝物、加齢関連因子といった多層的(マルチオミクス)データを統合的に解析し、認知的フレイルを高精度に特徴づける血液バイオマーカーの同定を目指しました。
本研究では、国立長寿医療研究センターバイオバンクおよびロコモフレイルセンターに登録された認知的フレイル患者43名と健常高齢者44名を対象に、臨床データ、RNA-seq、ELISA、メタボローム解析を組み合わせたマルチオミクス解析を実施しました。その結果、GDF15、BDNF、アディポネクチン、ミリスチン酸、ニコチンアミド、γ―ブチロベタインの6種類の血中因子を、認知的フレイルに関連する有力なバイオマーカー候補として新たに同定しました。
さらに、機械学習アルゴリズムであるランダムフォレストを用いて発症予測モデルを構築したところ、GDF15、ミリスチン酸、ニコチンアミドの3因子が特に診断に有用であることが明らかになりました(図1)。これらの結果から、血液バイオマーカーに基づく簡便で客観的な認知的フレイル診断法の実現に向けた重要な知見が得られました。

図1 予測モデルの結果
本研究は、血液検査により認知的フレイルを客観的かつ簡便に検出できる可能性を示した点で大きな意義があります。特に、メタボローム解析で同定されたミリスチン酸、ニコチンアミドは、いずれも栄養素として摂取可能な分子であり、将来的には食事介入やサプリメントを活用した新たな予防戦略につながる可能性があります。
またGDF15は加齢・炎症・筋力低下と密接に関わる分子であり、認知的フレイルの病態理解を深めるうえで重要な生物学的指標となります。これらの3因子を活用することで、医療・介護領域におけるリスク評価や介入効果のモニタリングが可能となり、さらには予防医療の実装に向けた新たな展開が期待されます。
本研究成果は、老年医学分野の国際専門誌「The Journal of Nutrition, Health and Aging」に2025年11月24日付で掲載されました。
なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)長寿科学研究開発事業、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)研究費、長寿医療研究開発費、厚生労働科学研究費補助金、日本学術振興会科学研究費助成事業の助成を受けて実施されました。
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