プレスリリース
2025年9月19日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)運動器疾患研究部は、加齢に伴い進行するサルコペニア1の病態解明に向けて、ヒト由来の細胞を使い、体の外で再現した新しい実験モデルを構築しました。
サルコペニアは、高齢者の転倒、骨折、寝たきり、さらには死亡リスクの上昇と深く関わる老年症候群の一つとして、世界的に注目を集めています。しかしその発症メカニズムは未解明な点が多く、有効な治療薬の開発は遅れています。これまでの研究の多くはマウスなどの動物モデルを用いて行われてきましたが、免疫応答や代謝、筋線維構成におけるヒトとの違いから、臨床応用には限界がありました。
図. SASPが誘導する筋管萎縮とミトコンドリア機能障害
本研究では、ヒト間葉系幹細胞に細胞老化を引き起こす処理を行い、それらが分泌するSASP2を、ヒト筋芽細胞から分化させた筋管3に添加することで、筋管直径が有意に縮小する現象を確認し、ヒト筋肉の老化に繋がる現象を、体の外で行う培養実験で再現することに成功しました。
また、細胞の遺伝子の働きを詳しく調べた結果、SASPの影響で筋肉のエネルギーを効率的に作れなくなる遺伝子、PDK44の働きが強まることが分かりました。これにより、エネルギーを作るミトコンドリアの働きが弱まる可能性があると考えられます。そこで、PDK4の働きを抑えることが知られる化合物、DCA5を添加したところ、筋管直径の縮小が抑制される傾向が確認されました。
この成果は、SASPを介したミトコンドリア機能障害がサルコペニアの一因であることを示唆し、PDK4やミトコンドリア経路を標的とした新たな治療戦略の可能性を提示するものです。
今後は、このヒト型モデルを活用した創薬スクリーニングや、バイオマーカー候補の探索など、臨床応用を見据えた研究の加速が期待されます。
An in vitro model to study molecular pathogenesis of sarcopenia established by a SASP-dependent human myotube culture
PLoS One. 2025 Jul 7;20(7): e0326968. doi: 10.1371/journal.pone.0326968.
Kiyo-Aki Ishii 1*, Ryo Hashimoto 1, 2, Chikako Umeda 1, 2, Tohru Hosoyama 1, Ken Watanabe 1, 3*
#本研究成果の一部は、名古屋市立大学医学部学生が、基礎自主研修として、国立長寿医療研究センターで研究を行った成果です。
運動器疾患研究部 部長 渡邉研
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