より多くの健康情報を入手することがフレイル予防の糸口に
2025年9月16日
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)老年学・社会科学研究センター フレイル研究部の研究グループは、全国の75歳以上の高齢者を対象に、フレイル(注1)とヘルスリテラシー(注2)の詳細な関連について、Web調査(注3)によるアンケートを実施しました。
研究の概要と調査結果
日本のフレイルの有症率は65歳以上で7.4%ですが、75から79歳では10.0%、80から84歳では20.4%、85歳以上では35.1%の人がフレイルであると言われています。フレイル予防には、運動をして体力を落とさないようにしたり、栄養のある食事を摂ったり、あるいは病気になった時に早めに対処することが重要です。
近年、ヘルスリテラシーが注目されています。フレイルの高齢者はヘルスリテラシーが低いことが報告されており、ヘルスリテラシーを高めることはフレイル予防につながる可能性があります。しかし、具体的にヘルスリテラシーのどのような能力がフレイルと関連しているか明らかになっていませんでした。
本研究では、フレイルの判定は「後期高齢者の質問票」(別添1)、ヘルスリテラシーは「HLS-EU-Q47」という質問票(別添2)を用いて、フレイルとヘルスリテラシーの関連を詳細に調べました。
本調査では、全国の75歳以上で要支援認定や要介護認定を受けていない高齢者、1032名(男性50.2%)から回答が得られました。回答者のうち、30.8%の方がフレイルであると判定されました。フレイルの人のヘルスリテラシーの点数は27点、フレイルではない人のヘルスリテラシーの点数は31点で、フレイルの人はヘルスリテラシーの点数が低い結果でした。これは、これまで言われてきた結果と同様でした。さらに、ヘルスリテラシーの47項目とフレイルの関連を調べた結果、フレイルの人はフレイルではない人に比べて、特に、以下の3つの健康情報を入手することが困難であるという分析結果でした。
- 病気の時に相談できる医療の専門家(医師や薬剤師など)に関する情報
- 受けることが必要な予防接種や検診の情報
- 運動や健康食品、栄養などの健康的な生活をするための情報

結果のポイント
1.ヘルスリテラシーの点数
フレイルの人の点数(27点)はフレイルではない人の点数(31点)よりも、統計学的に明らかに低いことが分かりました。
2.健康情報の入手の難しさ
※ 調査対象者の主観に基づく多変量ロジスティック回帰分析(注4)より
- 病気の時に相談できる医療の専門家(医師や薬剤師など)に関する情報の入手について、フレイルの人はフレイルではない人よりも、1.42(倍)難しい
- 受けることが必要な予防接種や検診の情報の入手について、フレイルの人はフレイルではない人よりも、1.89(倍)難しい
- 運動や健康食品、栄養などの健康的な生活をするための情報の入手について、フレイルの人はフレイルではない人よりも、1.77(倍)難しい
という多変量ロジスティック回帰分析の結果でした。
フレイルと健康情報の明確な因果関係については、さらなる研究が必要です。しかし本研究から、より多くの健康情報を入手することは大切であることが分かりました。
地域に住まわれている方々には、早いうちから健康に関する知識(ヘルスリテラシー)を高めること、自治体や企業の方々には、対象となる方々に対して、こうした情報へのアクセスをサポートすることが、フレイル予防の糸口になる可能性が示唆されました。
論文情報
- 掲載雑誌:Geriatrics & Gerontology International. 2025 Aug 12. doi: 10.1111/ggi.70135
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- タイトル:Association between health information-processing ability and frailty among community-dwelling older adults: A cross-sectional web-based study.(邦題:地域在住高齢者における健康情報処理能力とフレイルとの関連:ウェブ調査による横断研究)
著者
Hori N, Li J, Osuka Y.(堀紀子、李嘉琦、大須賀洋祐)
文中資料
注釈
- 注1
フレイルは、加齢にともない心身や社会的な機能の低下により、要介護になりやすくなる状態です。今回のフレイルの評価は、「後期高齢者の質問票」(別添1)という15項目からなるアンケートを使用しました。「後期高齢者の質問票」は、全国の自治体で行われている高齢者健診の問診票として2020年度から使用されているアンケートです。各質問に「よくない」回答をした時に1点が加算され、4点以上の時にフレイルであると考えられています。
- 注2
ヘルスリテラシーは、健康や医療に関する情報を入手、理解、活用する能力のことです。この能力を高めることは、病気の予防や健康寿命の延伸につながると言われています。今回は、「HLS-EU-Q47」(別添2)という47項目からなる質問票を用いました。「HLS-EU-Q47」は、健康情報の入手、理解、評価、活用の4つに分類され、それぞれの分類の中に詳細な質問があります。本調査では、47項目の総合点数や各項目との関連性の分析を行いました。
- 注3
今回行ったWeb調査は、調査会社に委託し、2024年6月に実施したものです。調査会社に登録している全国の75歳以上の男女に、インターネット上でアンケート調査を実施しました。
- 注4
多変量ロジスティック回帰分析は、いくつかの要素が、ある結果にどのくらい関連しているかを調べる方法です。たとえば、年齢、性別、生活習慣やヘルスリテラシーなどの要因が、A群とB群(ここでは、フレイルの人(群)とフレイルではない人(群)それぞれに、どのくらい関連するか調べたいときに使用する分析方法です。
リリースの内容に関するお問い合わせ
この研究に関すること
老年学・社会科学研究センター フレイル研究部 堀紀子、大須賀洋祐
- 電話:0562(46)2311(代表)
- E-mail:nhori[at]ncgg.go.jp、osuka[at]ncgg.go.jp
報道に関すること
国立長寿医療研究センター総務部総務課 総務係長(広報担当)
- 住所:474-8511 愛知県大府市森岡町七丁目430番地
- 電話:0562(46)2311(代表)
- E-mail:webadmin[at]ncgg.go.jp
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