プレスリリース
2025年8月18日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
学校法人藤ノ花学園 豊橋創造大学
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)研究所 バイオセーフティ管理室の錦見昭彦室長、近藤遼平研究員、豊橋創造大学保健医療学部理学療法学科の藤原光宏助教(研究当時 国立長寿医療研究センター研究員)らの研究グループは、年齢とともに増加する特殊な免疫細胞(B細胞)において、細胞運動を促進する因子「Fascin1」と「Pak1」の発現が増えることにより、組織内を活発に運動することを明らかにしました。
年齢とともに増加し、老化に伴う慢性炎症への関与が示唆されている老化関連B細胞(ABCs)が、アクチン細胞骨格注1)を制御することにより組織内を活発に運動することを明らかにした。
ABCsにおいて、アクチン細胞骨格の制御に関わるFascin1とPak1の発現が上昇することで、運動性が向上していることが明らかになった。
研究成果が、加齢性の炎症疾患を治療、予防する方法の開発につながることが期待される。
B細胞は、体内に侵入した異物に対して抗体を産生することで、私たちの体を防御する役割を担う免疫細胞です。これまでに、老化関連B細胞(Age-associated B Cells; ABCs)とよばれる特殊なリンパ球が、年齢とともに増加することが明らかになっています。ABCsは、自己抗体注2)を産生するなどして炎症を引き起こすことから、老化に伴う慢性炎症に関与していると考えられています。ABCsは組織内を活発に運動して、T細胞など、他の免疫細胞に働きかけることが知られていましたが、その詳細なメカニズムは明らかになっていませんでした。
一般に細胞が組織内を動く際に、アクチン細胞骨格という繊維状の構造が伸びたり縮んだりすることにより、細胞の形態を変化させながら進んでいきます。研究グループは、ABCsにおいて、他のB細胞に比べてアクチン細胞骨格の形成が促進されていて、活発に運動していることを見出しました。
B細胞などの免疫細胞は、ケモカイン注3)という物質に誘引されて体内を動くことが知られています。研究グループは、ABCsがどのような種類のケモカインに誘引されるのかを比較しました。その結果、ABCsは、一般にB細胞を誘引するCXCL13というケモカインより、T細胞を誘引するCCL21というケモカインに誘引されるやすくなっていることがわかりました。このことから、ABCsはリンパ節などのT細胞が集まっている領域に引き寄せられて、T細胞に働きかけていることが示唆されました(図1)。
次に、アクチン細胞骨格の制御に関わっている因子の発現を比較したところ、ABCsにおいて、「Fascin1」と「Pak1」の発現が、通常のB細胞と比較して高いことがわかりました。Fascin1は、アクチンの繊維を束状にする役割を持ち、細胞が組織の隙間を縫って進むのに必要な因子です。また、Pak1は細胞が前進する際に、進行方向に向かって突き出す仮足の形成に不可欠な役割を担っています。ABCsは、Fascin1やPak1の発現を上昇させることで、組織内を活発に動くようになることが明らかになりました。
近年、加齢性の炎症疾患にABCsが関与することを示す事例が報告されるようになってきました。本研究により、ABCsが組織の中で活発に運動するメカニズムが明らかになったことで、これらの加齢性の炎症の発症メカニズムに関する理解が深まり、関連する疾患の治療法や予防法の開発につながることが期待されます。
図1. 老化関連B細胞(ABCs)は二次リンパ組織のT細胞領域に引き寄せられ、活発に運動しながらT細胞に働きかける。
Fujiwara M, Kondo R, Sugiyama Y, Maruyama M, Nishikimi A.
Increased Fascin1 and Pak1 expressions enhance age-associated B-cell actin cytoskeleton remodeling and motility.
Cell Biochemistry and Function 2025; 43: e70090
国立長寿医療研究センター研究所 バイオセーフティ管理室
錦見昭彦
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