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中高年のサルコペニアだけでなく軽度認知障害(MCI)の早期判別における筋質評価・Phase Angle(フェーズアングル)の有用性を証明 〜適切な筋質評価によるMCIの早期判別の可能性〜

2025年5月26日

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)ジェロサイエンス研究センター・浅原哲子センター長らの研究グループは、中高年のサルコペニアおよび軽度認知障害(MCI)注1の早期判別にPhase Angle(フェーズアングル、PhA)注2による筋質評価が有用であることを、「Elder-safe study(健診受診者における脳心血管病、サルコペニアおよびコグニティブフレイルの早期診断指標・評価パネルの構築に関する研究)」の横断解析により見出しました。

注1)軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)とは、認知症と健常な状態の中間であり、記憶力や注意力などの認知機能に低下がみられるものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態。

注2)Phase Angle(フェーズアングル、位相角)とは、生体インピーダンス法(BIA法)による身体組成分析で得られる生体指標の1つで、細胞の健康状態や筋質を反映します。フェーズアングルは細胞膜で発生する電気抵抗を角度で表し、高値の場合はサルコペニアのリスクが低く、低値になるとそのリスクが上昇する、新たなサルコペニア指標として注目されています。

研究概要および研究成果

 本研究は、武田病院健診センター(京都府)で一般健診を受診した40歳以上の263名(男性163名、女性100名)を対象に、5種類の骨格筋評価指標(1. 筋量指標:四肢骨格筋量指数 [SMI = 四肢筋量 (ASM)/身長2]、ASM/BMI、2. 筋力指標:握力、握力/上肢骨格筋量、3. 筋質指標:PhA)と認知機能(MoCA-J)との関連解析を実施しました。その結果、女性では年齢にかかわらず、PhAが高い(筋質が良い)ほどMCIである可能性が低くなるということが示されました(図1)。このことから、今後更に研究を進めることで、MCIを早い段階で見つけたり、将来の発症を予測したりするための指標としてPhAが使える可能性があると考えられます。

図1.女性におけるサルコペニア関連指標と軽度認知障害(MCI)との関連解析
(年齢で調整したロジスティック回帰分析注3

注3)ロジスティック回帰分析とは、ある結果(本研究では「MCIであるか、ないか」)が、人の特徴(年齢や性別、今回であれば筋力や筋質)とどのように関係しているかを調べるための統計手法です。

 さらに、PhAと6つの認知機能下位項目(記憶、言語、遂行機能、注意、視空間認知、見当識)との相関分析より、女性では「記憶、言語、遂行機能、注意」の4項目、男性では「記憶」と正の関連が認められました(表1)。すなわち、男女ともに筋質評価・PhAが認知機能の中でも、とりわけ認知機能低下の初期に現れるとされている「記憶」と関連することが示され、PhAによる筋質の低下が認知機能低下の初期症状を捉えることができる可能性が示唆されました。

表1.認知機能の下位項目とPhase Angleとの相関分析

 本研究で得られた筋質評価・PhAに関する新規知見は、超高齢社会のわが国で増加しているサルコペニアと認知症との関連性を示し、また、これらの発症・進展メカニズムの解明やリスク評価に資するもので、今後のサルコペニアと認知症の予防戦略や早期診断法の開発等につながるものと期待されます。

 本研究成果は、国際学術誌「Journal of Cachexia, Sarcopenia Muscle」に2025年5月8日付で掲載されました。

研究概要図:筋質評価・Phase Angleによるサルコペニアと認知症(脳-筋連関)の新たな早期評価指標の可能性

〈略語〉
ASM:Appendicular skeletal muscle mass index(四肢骨格筋量指数)
BMI:Body mass index(体格指数)
MCI:Mild cognitive impairment(軽度認知障害)
SMI:Skeletal muscle index(骨格筋量指数)

■ 研究グループ

池上 健太郎1,2, 加藤 久詞1,3, 田中 将志1,3,4,#, 山陰 一1,3, 加藤 さやか1, 岩佐 真代1, 大石 寛5, 山本 結子2, 金﨑 めぐみ6, 桝田 出1,7, 石井 好二郎3,4,#, 浅原 哲子1,3,#

1)国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 内分泌代謝高血圧研究部
2)同志社大学大学院 スポーツ健康科学研究科
3)国立長寿医療研究センター ジェロサイエンス研究センター 代謝・内分泌研究部
4)健康科学大学 健康科学部 リハビリテーション学科
5)同志社大学 スポーツ健康科学部
6)武田病院健診センター
7)三菱京都病院
# 論文責任著者

■論文詳細

論文名:Phase Angle Is a Potential Novel Early Marker for Sarcopenia and Cognitive Impairment in the General Population

■掲載誌

Journal of Cachexia, Sarcopenia Muscle

 

リリースの内容に関するお問い合わせ

この研究に関すること

国立長寿医療研究センター研究所 ジェロサイエンス研究センター
代謝・内分泌研究部 部長・浅原哲子
電話:0562-46-2311(代表)
E-mail:asahara[a]ncgg.go.jp
※[a]を@に置き換えて下さい。

報道に関すること

国立長寿医療研究センター総務部総務課 総務係長(広報担当)
〠474-8511 愛知県大府市森岡町七丁目430番地
電話:0562(46)2311(代表)
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