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ホーム > 研究所 > 研究実績 > 軽度認知障害の高齢者に対するオンライン運動教室において、対面形式の運動教室と同程度の参加率、運動強度を確保できることが明らかになりました―COVID-19パンデミック下におけるJ-MINT研究の分析結果より―
2025年4月24日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)認知症先進医療開発センターの杉本大貴外来研究員、櫻井孝研究所長らの研究グループは、東京都健康長寿医療センターとの共同研究により、軽度認知障害(MCI) をもつ高齢者を対象とした18か月間のランダム化比較試験 (J-MINT) のデータを解析しました。
今回の解析では、COVID-19パンデミック中に実施された「ビデオ通話システムを利用したオンライン運動教室 (以下、オンライン運動教室)」と「対面形式の運動教室 (以下、対面運動教室) 」の違いを解析し、2つの提供方法において「運動教室への参加率」については、差がなく、また、十分な運動時間が確保できれば、「運動強度 (注1)」も対面運動教室と同程度に達する可能性があることが示されました。
J-MINT研究は、65歳から85歳までのMCIをもつ高齢者を対象とした認知症予防のための多因子介入プログラムの効果を検証するランダム化比較試験です。介入群の参加者には、リストバンド型活動量計、タブレットPCが配布され、生活習慣病の管理、週1回の運動教室 (全78回)、栄養相談 (全15回)、タブレットPCを用いた認知トレーニングが提供されました。J-MINT研究では、SARS-CoV2による感染拡大に伴い緊急事態宣言が発出され、一部地域では対面運動教室の実施が困難となり、試験の途中からビデオ通話システム (Zoom)を活用したオンライン運動教室を導入しました。参加者は、配布されたタブレットPCを利用し、自宅から運動教室に参加しました。
運動介入による認知機能低下予防効果を最大化するためには、十分な回数の運動教室への参加と、適切な運動強度の確保が重要とされています。しかし、オンライン運動教室では、アプリケーションへの接続の難しさによる参加率の低下、自宅のスぺース確保の問題やタブレットPCの小さな画面を見ながら運動をすることによる運動強度の低下が懸念されました。そこで本研究では、介入群に割り付けられ、研究に最後まで参加した207名を対象に、オンライン運動教室と対面運動教室の参加率および運動強度を比較しました。運動強度は、リストバンド型活動量計を用いて以下の式で計算しました: 運動強度 (%) = [(運動時の最大心拍数 − 安静時心拍数)/ (最大心拍数 − 安静時心拍数)] ×100。最大心拍数は、(207 − 0.7×年齢)で推定しました。なお、SARS-CoV2による感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出期間は地域によって異なるため、愛知県と東京都で開催された運動教室を分けて比較しました (表1)。
愛知県 | 東京都 | |
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参加者 | 164名 | 43名 |
介入期間 | 2020年7月から2022年11月 | 2020年7月から2022年8月 |
緊急事態宣言が 発出されていた期間 |
2020年4月10日から2020年5月25日 2021年1月14日から2021年2月28日 2021年8月27日から2021年9月30日 |
2020年4月7日から2020年5月25日 2021年1月8日から2021年3月21日 2021年4月25日から2021年6月20日 2021年7月12日から2021年9月30日 |
運動教室総開催数 | 78回 | 78回 |
対面運動教室 | 76回 | 54回 |
オンライン運動教室 | 2回 | 24回 |
愛知県では、全78回の運動教室のうち、2回がオンラインで実施されました。運動教室の参加率の中央値は、対面運動教室92%、オンライン運動教室100%であり、オンライン運動教室の方が、参加率が高いことが示されました (P < 0.001)。一方、運動強度の中央値は、対面運動教室48.1%、オンライン運動教室32.4%であり、オンライン運動教室の運動強度が低いことが明らかになりました (P < 0.001)。この要因として、オンライン運動教室の初回は、適切に接続できているかの確認や、安全性・実施手順の確認に時間を要したため、十分な運動時間を確保できなかったことが考えられます。
東京都では、全78回の運動教室のうち、24回がオンラインで実施されました。運動教室の参加率の中央値は、対面運動教室86%、オンライン運動教室92%であり、オンライン運動教室の方が、参加率が高いことが示されました (P = 0.046)。また、運動強度の中央値は、対面運動教室51.7%、オンライン運動教室48.8%であり、オンライン運動教室と対面運動教室で運動強度に有意な差は認められませんでした (P = 0.279)。オンライン運動教室中に転倒などの事故は発生しませんでした。図1に、東京都で開催された運動教室における運動強度の経時的な変化を示します。
図1. 東京都で開催された運動教室の運動強度の経時推移 (参加者数24名)
青色の線が対面運動教室、オレンジ色の線がオンライン運動教室の運動強度を示しています。第26・27回の運動教室は緊急事態宣言のため中止されました。その後、研究プロトコルの修正を行い、第28から31回、37から44回、48から58回の運動教室はオンラインで実施されました。また、第71回は大雪警報の影響によりオンラインで実施されました。
本研究により、MCIをもつ高齢者においてもオンライン運動教室の実施が可能であり、対面運動教室と同程度の参加率を達成できることが示されました。また、十分な運動時間を確保できれば、運動強度も対面運動教室と同程度に達する可能性があることが示されました。
オンライン運動教室は、移動が困難な高齢者や遠隔地に住む高齢者にとっても有用な選択肢となり得ます。また、感染症流行時のみならず、災害発生時や悪天候などにより対面での運動機会が制限される場合にも、継続的な運動習慣を維持する手段としての活用が期待されます。
今後は、オンライン運動教室が認知機能の維持や向上にどのように寄与するかをより詳細に検証することが求められます。
注1:認知機能低下予防には、中から高強度の運動を行うことが有効であるとされています。J-MINT研究では、心拍数を基に運動強度を評価し、運動強度が40%から80%になるように運動プログラムが提供されました。
本研究成果は、専門学術誌「The Journal of Aging Research & Lifestyle」に掲載されました。
Sugimoto T, Uchida K, Yokoyama Y, Onoyama A, Fujita K, Kuroda Y, Hinakura K, Ogawa S, Suzuki H, Fujiwara Y, Crane PK, Arai H, Sakurai T, J-MINT study group. Adherence and aerobic exercise intensity in live online exercise sessions for older adults with mild cognitive impairment: Insights from the Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia.
J Aging Res & Lifestyle 2025;14. doi: 10.1016/j.jarlif.2025.100003.
国立長寿医療研究センター研究所 認知症先進医療開発センター
予防科学研究部 杉本大貴
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