プレスリリース
2024年8月28日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)は、「NCGG-STORIES(National Center for Geriatrics and Gerontology–Life STORIES of People with Dementia)」プロジェクトを2022年から開始しました。この画期的な基盤研究は、世界最大規模となる、もの忘れ外来を受診した人及びその家族約8000組を対象に、診断後の医療や介護、緊急入院、終末期ケア、意思決定などのライフストーリーを、公的データやアンケート調査を用いて詳細に追跡します。これにより、認知症ケアに関する新しい知見を得て、より適切な医療・介護の提供体制を整え、必要な支援や政策の提言を行い、認知症の人とその家族の生活の質を向上させることを目指しています。NCGG-STORIESは、これまでに研究者に活用され、その結果として数々の国際雑誌への掲載や学会での発表が行われています。本プロジェクトの内容及びこれまでの成果をより多くの研究者や関係者に知っていただき、さらなる共同研究や新たな知見創出を促進することを期待します。
NCGG-STORIESは、研究だけでなく実践や実装にも活用できます。例えば、得られた知見をもとにした科学的に裏付けられた政策を立案することで、現場でより効果的な支援が提供できるようになります。また、民間企業も知見を活用して、認知症の人やその家族に向けた新しいサービスや製品の開発、既存のサービスの改善を図ることが期待されます。これにより、認知症ケアの質の向上とともに、共生社会の実現に向けて、社会全体で認知症の課題に取り組むための基盤が強化されます。
NCGG-STORIESの対象者は、2010年6月から現在までの十数年間に当センターもの忘れ外来を受診した患者とご家族のうち、研究利用に同意の得られた約8000組です。NCGG-STORIESには、診療データに加え、ゲノムや頭部MRIの情報、そしてアンケート調査データが含まれており、認知症の人の予後分析ができます。
NCGG-STORIESはすでに活用され、軽度認知症障害や認知症の人の早期死亡を予測するリスクスコアを開発(Sugimotoら, 2023)し、認知症タイプ別の死亡リスクと死因 (Onoら,2023)、そのほか認知症の行動・心理症状 (Noguchiら,2024)や認知症の人の血糖コントロール状況が予後に及ぼす影響(Sugimotoら,2024)を明らかにし、研究成果は国際学術誌に出版されています。
NCGG-STORIES のデータは、2024年度から新たに医療と介護のレセプト情報が統合されます。これにより、初診から治療、介護、そして死亡に至るまでの一連の過程を追跡することが可能となり、認知症の人のライフストーリーが明らかになります。この統合されたデータにより、診断後から死亡に至るまでの介護費用の算出や医療・介護サービスの効果分析が可能になり、認知症ケアの質を向上させ、認知症の人やその家族により適切な支援を提供するための貴重な科学的根拠が得られることが期待されます。
私たちは、NCGG-STORIESの参加者が「もの忘れ外来」を初めて訪れた際に収集されたデータを活用し、死亡リスクを予測するモデルを作成しました。対象となった2610名のうち、中央値4.1年の追跡期間で544名が死亡していました。予測モデルには、年齢 (70~79歳: +3点、80~84歳: +4点、85歳以上: +6点)、性別 (男性: +4点)、BMI (やせ: +1点、 過体重: -1点)、歩行速度の低下 (+1点)、身体不活動 (+1点)、手段的日常生活動作の障害 (+1点)、MMSE (認知機能評価) (11~20点: +2点、 10点以下: +3点]、肺疾患 (+1点)、糖尿病 (+1点)が含まれました。この予測モデルの点数範囲は-1から19点です。この予測モデルの予測力は高いことがわかりました。
私たちは、NCGG-STORIESの参加者を対象に、糖尿病の血糖管理状況が早期死亡に与える影響を調査しました。血糖管理状況は、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が提唱した血糖管理目標値を基準としました。解析対象は1996名で、そのうち468名が糖尿病を有していました (血糖管理良好群: 317名、高血糖群: 94名、低血糖群: 57名)。調査の結果、非糖尿病患者と比較して、高血糖群及び低血糖群は死亡リスクが高いことが示されましたが、血糖管理良好群では、統計的に有意な死亡リスクの増加は見られませんでした。このことから、高齢者糖尿病診療ガイドラインに沿った血糖管理を達成することで、糖尿病患者の寿命延伸につながる可能性が示されました。
軽度認知症障害または認知症の診断を受けた方2,746人を最大8年間追跡し、初診時におけるDementia Behavior Disturbance Scaleにより評価した行動・心理症状と早期死亡との関係性を分析しました。結果、男性において行動・心理症状が強いと死亡リスクが高く、また症状のうち、日常生活への関心の欠如、日中の過度な睡眠、介護拒否の項目は特に高い死亡リスクと関係しました。本研究は、認知症の人の予後改善に対して行動・心理症状の評価と適切な対処が重要であることを示しました。
NCGG-STORIESから3,229名のデータを用いて、認知機能正常(NC)、軽度認知障害(MCI)、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭葉変性症の6グループ別の死亡リスク、死因、予後因子を検証しました。その結果、すべての認知症タイプ及びMCIの人はNCの人に比べて死亡リスクが高く(ハザード比2.61-5.20)、DLBの人はADの人よりもさらに死亡リスクが高いことがわかりました。最も一般的な死因は肺炎であり、次いで癌が挙げられました。また早期死亡とAPOE4遺伝子保有との関連は認められませんでした。この研究結果は、認知症タイプ別の死亡リスクと死因を示す貴重な資料として、今後の高齢者医療の計画と政策策定に役立つことが期待されます。
老年学・社会科学研究センター 老年社会科学研究部 部長 斎藤民
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認知症先進医療開発センター 予防科学研究部 研究所長 櫻井孝
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国立長寿医療研究センター総務部総務課総務係長(広報担当)
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