プレスリリース
2024年7月25日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典 以下 国立長寿医療研究センター)老化疫学研究部の大塚礼部長を代表とする研究グループは、大正製薬株式会社および北翔大学との共同研究で、食事からのタウリン摂取量が多いと、8年後の脚の筋力(膝伸展筋力)が維持される傾向にあることを「NILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)」の縦断解析により見いだしました。
NILS-LSAは、愛知県大府市・東浦町の地域住民から性・年代別に層化無作為に選出された40歳以上の中高年者を対象に、医学・心理・運動・身体組成・栄養など多角的な観点から老化・老年病予防策を検討するコホート研究です。
魚介類、肉類、卵類等の食品から日常的に摂取されるタウリンは、ヒトの体重の約0.1%を占め、抗酸化/浸透圧調節等の多様な機能を有していることが知られています[1]。また、マウスやサル等の哺乳類の研究では、タウリンの摂取が健康寿命を延長するといった報告[2]もあり、近年注目されています。しかし、食事由来のタウリンと体力に関する報告はほとんどなく、タウリンが体力維持に関連するかは明らかではありませんでした。
本研究では、NILS-LSA第3次調査(2002~2004年、ベースライン)と約8年後に行われた第7次調査(2010~2012年)の参加者のうち、両調査において食事秤量記録調査と体力測定を実施した40歳以上の男女1,454名を対象に、ベースラインのタウリン摂取量と体力指標(膝伸展筋力、長座位前屈、閉眼片足立ち、最大歩行速度)の8年間の変化量との関連を縦断的に解析しました。なおタウリン摂取量は、2010年版日本食品標準成分表(1,878品目)のうち751品目(海藻類、魚介類、肉類、卵類、牛乳・乳製品の5つの食品群を含む)から作成したタウリン含量表を用いて算出しました。
その結果、食事からのタウリン摂取量が多いほど膝伸展筋力が増加していることが見いだされました(図1.(A)40歳以上)。65歳以上では、タウリン摂取量の多寡にかかわらず、膝伸展筋力は低下する傾向を認めましたが、タウリン高摂取群においては膝伸展筋力の減少幅が小さく、タウリンの摂取量が多いと筋力が維持される傾向が示されました(図1.(C)65歳以上)。
図1. 8年間の膝伸展筋力変化量と1日当たりのタウリン摂取量
これらの結果より、タウリンの摂取は中高年者の膝伸展筋力、すなわち脚の筋力の維持につながる可能性が示唆されました。本解析集団では、食事由来のタウリンの約80%は魚介類からの摂取でしたが、近年、我が国では魚介類摂取量が低下しており、タウリン摂取量も低下傾向にあります。
高齢化が進む我が国において、生涯を通して脚の筋力を維持することは、社会活動や運動習慣を保持し、健康で豊かな生活をおくるために重要な要素です。本研究により、魚介類の摂取等によりタウリンを摂取することが筋力維持に良い影響を与える可能性が示唆されたことから、魚介類を取り入れた栄養バランスの良い食生活を継続することが健康寿命の延伸に重要と考えられます。
本研究成果は、専門学術誌「Frontiers in Nutrition」に掲載されました。
国立長寿医療研究センター 研究所 老化疫学研究部
国立長寿医療研究センター総務部総務課 総務係長(広報担当)