本文へ移動

研究所

Menu

プレスリリース

ホーム > 研究所 > 研究実績 > 簡易に実施可能な介護状況評価の質問票を開発 -家族介護者支援を推進ー

簡易に実施可能な介護状況評価の質問票を開発 -家族介護者支援を推進ー

2024年4月2日

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下 国立長寿医療研究センター)老年社会科学研究部の野口泰司研究員、斎藤民部長らのグループは、東北大学、国立保健医療科学院との共同研究において、簡易に実施可能な介護者状況を評価する質問票を開発しました。この質問票は、介護保険現場や行政施策などにおいて、要介護高齢者を介護する家族などの介護状況を簡易に把握することができ、介護者支援の推進を通じた在宅介護環境の整備につながることが期待されます。

研究の背景

 要介護高齢者の増加に伴い、家族などに介助や生活支援を行う介護者は2021年には650万人に上り、家族介護者は在宅介護の大きな役割を担っています。しかし、介護は時には負担を生じ、介護者のメンタルヘルスやウェルビーイングを損ねる可能性があるため、介護者支援の推進は持続可能な日本の介護システムを維持するためにも重要な社会課題です。
 家族介護者は、感情的、社会的、経済的、身体的、そして精神的と、様々な負担を経験します。一方で、介護はネガティブな影響だけでなく、自己肯定感や自尊心の向上などのポジティブな影響ももたらすことが知られています。これらの介護による様々な影響を評価し、必要な場合は適切な支援に繋げることが求められます。しかし、これまで使用されてきた介護者の評価は、必ずしも介護による多様な影響を捉えることができず、特に経済的負担や介護によるポジティブな影響については見逃されていました。
 2009年に日本語版が開発されたCaregiver Reaction Assessment(以下CRA-J)は、「日常生活への影響」、「ケアに関する受け止め」、「家族のサポート」、「健康状態への影響」、「経済的な影響」の5要素から構成され、介護による経済的負担やポジティブな影響も含めた多様な側面について介護者の状況を評価することできます。しかしながら、CRA-Jは全質問項目が18項目とやや多いため回答負担が大きく、実際の介護現場や行政施策において使用しにくい問題がありました。
 そこで本研究は、CRA-Jの短縮版を作成し、簡易に実施可能で介護による多様な影響を把握可能な介護者評価の質問票を開発することを目的としました。

研究成果の内容

 本研究は、インターネット調査を通じて収集された、65歳以上の家族に介護を行っている介護者934人のデータを用いて行われました(平均年齢58.8歳[20~82歳]、女性割合50.2%)。対象者はCRA-Jの18項目版をはじめとした介護状況や心理状況についての質問に回答しました。得られたCRA-Jの回答情報を、確証的因子分析という複数の質問項目の回答が想定された通りに測定できているか検証する統計的手法を用いて分析したところ、安定して介護状況の5要素を捉えることが確認されました。次に、短縮版の作成のためにCRA-Jの各5要素から代表する2項目をそれぞれ選択し、全10項目の短縮版(以下、CRA-J-10:10〜50点満点)を作成しました(表1)。
 CRA-J-10は点数が高いほど介護負担が重いことを示します。介護の頻度や時間が増加するに従い、CRA-J-10の点数が大きくなることが確認され、介護状況をよく反映することが示されました(図1)。さらに、CRA-J-10は介護負担感や肯定感などの他の指標とも中程度以上の相関関係が確認され、この質問票による評価の適切さが示されました。
 また、実際の現場にて使いやすいように、CRA-J-10の合計点数による介護負担の重度分類を行いました(図2)。介護負担なし(10〜20点)、軽度(21〜30点)、中程度(31〜40点)、重度(41〜50点)とした分類は、重度になるほど抑うつの有病率が増加することが確認され、簡便なハイリスク介護者の判定基準を提案しました。特に、中程度以上では抑うつを持つ者が急激に上昇しました。
 本研究は、経済的負担や介護によるポジティブな影響も含む多面的な評価が可能な介護状況評価の質問票の短縮版を作成しました。これにより、介護現場や行政施策における簡易な介護者の評価が可能となり、介護者支援の推進を通じた在宅介護環境の整備につながることが期待されます。
 本研究成果は、2024年2月10日に、日本老年医学会の国際学術誌である Geriatrics & Gerontology International に掲載されました。
 本研究は、長寿医療研究開発費、独立行政法人日本学術振興会科学研究費の助成を受けて行われました。

論文情報

Noguchi T, Nakagawa T, Jin X, Komatsu A, Togashi S, Miyashita M, Saito T. Development of a short form of the Japanese version of the Caregiver Reaction Assessment (CRA-J-10) among informal caregivers of older adults. 2024;24(3):290-296.

 

表1. Caregiver Reaction Assessment短縮版(CRA-J-10)
「介護についてあなたが感じていることについておうかがいします。あてはまる番号一つに○をつけてください。」

  全く
思わない
思わない どちら
でもない
思う いつも
思う
#1. 介護を始めてから、自分の予定や計画が減った。 1 2 3 4 5
#2. 介護のせいで、自分がくつろぐ暇がない。 1 2 3 4 5
#3. 率先して介護をしたいと願っている。 1 2 3 4 5
#4. 介護することで、自分も幸せになることができる。 1 2 3 4 5
#5. 他の家族(兄弟姉妹、子どもたち)は、
自分ひとりに介護をさせている。
1 2 3 4 5
#6. 誰もが私だけに介護を押し付けている。 1 2 3 4 5
#7. 介護を始めてから、自分の健康状態が悪くなった。 1 2 3 4 5
#8. 介護を始めてからは、いつも疲れている。 1 2 3 4 5
#9. 介護により、金銭的負担を強いられている。 1 2 3 4 5
#10. 介護のための費用を払うことが難しい。 1 2 3 4 5

図1

※エラーバーは標準偏差を示す。1日の介護時間について、「その他」と回答した8人は除外された。

図2

プレスリリース