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血中の遺伝子発現データと臨床情報の統合解析からサルコペニア診断に有効なバイオマーカー候補を発見

2023年7月18日

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター

国立大学法人 広島大学

【研究成果のポイント】

【概要】

 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(荒井秀典理事長)研究所と広島大学大学院の研究グループが、サルコペニア患者と健常高齢者の血液を用いた網羅的な遺伝子発現データ(RNAシークエンス(*1))と臨床データの統合解析を行い、歩幅と3つの遺伝子(HERC5, S100A11, FLNA)がサルコペニア診断に有効なバイオマーカーとなりうることを発見しましたまた、肥満パラドックス(*2)やサルコペニア肥満(*3)に代表されるように、高齢者の肥満評価は議論の多い点ですが、今回の研究成果はBMIを考慮したリスク予測においても有効であることが示され、サルコペニア肥満(*3)の評価にも役立つことが期待されます。本研究で得られた知見は、サルコペニアに関する発症メカニズムの解明やリスク評価に資するもので、今後のサルコペニア研究の進展と予防法開発等につながるものと期待されます。

 この研究成果は、老年病分野の国際専門誌 「Journals of Gerontology Series A biological sciences and medical sciences」に2023年6月22日付で掲載されました。

 なお本研究は、AMED、国立高度専門医療研究センター医療研究連携推進本部(JH)研究費、長寿医療研究開発費、厚生労働科学研究費補助金、文部科学省科学研究費の助成を受けて行われました。

 

研究グループ

国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター

 重水 大智(しげみず だいち)  研究部長

 菅沼 睦美(すがぬま むつみ)   研究員

 秋山真太郎(あきやま しんたろう) 研究員

 尾崎 浩一(おざき こういち)   センター長/研究部長

 光森 理紗(みつもり りさ)    研究員

国立長寿医療研究センター 研究所 研究推進基盤センター

 新飯田俊平(にいだ しゅんぺい)  センター長/研究所特任補佐

国立長寿医療研究センター 研究所 ジェロサイエンス研究センター

 細山 徹(ほそやま とおる)    研究副部長

国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター

 佐竹 昭介(さたけ しょうすけ)  研究部長

国立長寿医療研究センター 病院 ロコモフレイルセンター

 松井 康素(まつい やすもと)   センター長

 竹村真里枝(たけもと まりえ)   医長

 

広島大学大学院医学系科学研究科循環器内科学

 中野由紀子(なかの ゆきこ)    教授

 古谷 元樹(ふるたに もとき)   大学院生

 

【研究の背景】

 サルコペニアは、筋肉量・筋力の低下をきたす老年病の一つで、高齢社会の進展に伴い、その数は年々増加しています。また、死亡や要介護のリスクを向上させるため、早期診断・早期介入が望まれています。これまでのサルコペニア診断は、臨床測定値(主に身体活動に関するもの)が用いられてきましたが、遺伝子レベルの診断マーカーがあれば、より正確なサルコペニア診断が可能になるものと期待されています。

【研究成果の内容】

 研究グループは、国立長寿医療研究センターバイオバンクおよびロコモフレイルセンターに登録されている52名のサルコペニア患者と62名の健常者(normal control: NC)の血液を用いたRNAシークエンス解析を行い、サルコペニア発症に関連する遺伝子を網羅的に調べました(図1)。

図1 RNAシークエンシング解析の結果

図1 RNAシークエンシング解析の結果

疾患群と健常者群を比較して疾患発症に関連する遺伝子セットを探索

 さらに同定した遺伝子と臨床情報の統合解析から(機械学習アルゴリズムの一つであるランダムフォレスト(*4)を適用)、サルコペニア発症予測モデルを構築した結果、歩幅と3つの遺伝子(HERC5, S100A11, FLNA)がもっとも高い予測精度の実現に貢献しました。これらのバイオマーカーは、BMIを考慮した場合においてもその予測精度は高く維持されたことから、サルコペニア肥満(*4)の評価にも有効である可能性が示唆されました(図2)。

図2 機械学習モデルの結果
2 機械学習モデルの結果

(a)性別、年齢を考慮したモデル(b)性別、年齢、BMIを考慮したモデル


 同定された3つの遺伝子は、筋炎や動脈硬化との関連が報告されており、サルコペニアの発症において炎症が大きな役割を果たしている可能性を改めて示しました。さらに、これらの遺伝子は血中だけでなく、筋肉でも発現していることが本研究で確認されました(図3)。したがって、これらのバイオマーカーはサルコペニアの診断に有効なだけでなく、筋肉量・筋力の低下をきたす疾患であるサルコペニアの病態メカニズムの解明にもつながる可能性が示唆されました。

図3 血液、筋肉でのHERC5、FLNA、S100A11の遺伝子発現検証

図3: 血液、筋肉でのHERC5、FLNA、S100A11の遺伝子発現検証

(a)血液での発現(b)筋肉での発現

【研究成果の意義】

 研究グループは、分子生物学的アプローチ(RNAシークエンス(*1)解析)を通して、新たなサルコペニア診断に有効なバイオマーカー候補を同定しました。本研究で同定したバイオマーカー候補は、従来の臨床評価項目を中心としたサルコペニアの診断に新たな選択肢を提供できるだけでなく、サルコペニアの発症メカニズムの解明やサルコペニア予防の研究等に貢献すると期待されます。

【論文情報】

掲載誌: Journals of Gerontology Series A biological sciences and medical sciences

著者: Motoki Furutani, Mutsumi Suganuma, Shintaro Akiyama, Risa Mitsumori, Marie Takemura, Yasumoto Matsui, Shosuke Satake, Yukiko Nakano, Shumpei Niida, Kouichi Ozaki, Tohru Hosoyama & Daichi Shigemizu

論文タイトル

RNA-sequencing analysis identification of potential biomarkers for diagnosis of sarcopenia

DOI: 10.1093/gerona/glad150
 

【用語解説】

*1 RNAシークエンス(RNA-seq)

次世代型シークエンサーを用いてメッセンジャーRNAの配列情報を網羅的に読み取り、得られた配列から遺伝子の発現を測定する。

*2 肥満パラドックス

一般的に肥満は、生活習慣病、認知症などのリスク因子とされるが、死亡リスクの低下が認められる肥満者が観察される。この現象は特に高齢者で多く認められる。

*3 サルコペニア肥満

サルコペニアと肥満が合併した状態を示す。サルコペニア肥満は、運動機能低下のみならず心血管イベントの発症率を高め、よりハイリスクな疾患と認識されている。

*4 ランダムフォレスト

機械学習アルゴリズムの一つで決定木(ディシジョンツリー)とアンサンブル学習の2つを組み合わせた手法。回帰・分類問題のどちらにも使用でき、ジニ重要度を用いて特徴量の重要度の判断も行うことができる。

お問い合わせ先

・報道に関すること

国立長寿医療研究センター 総務部総務課

広報担当 伊藤 大佑

TEL:0562-46-2311(代表)

E-mail: webadmin(at-mark)ncgg.go.jp

※(at-mark)を「@」に置き換えてください

・研究に関すること

国立長寿医療研究センター 研究所 メディカルゲノムセンター

バイオインフォマティクス研究部

重水 大智

TEL:0562-46-2311(内線4153)

E-mail:daichi(at-mark)ncgg.go.jp

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