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聴力が低下した地域在住高齢者の孤独感が要介護状態の新規発生と関連することを明らかにしました

2023年4月10日

JST(科学技術振興機構)ロゴおよびNCGG(国立長寿医療研究センター)ロゴ

国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
科学技術振興機構(JST)

ポイント

概要及び研究成果の内容

 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典。以下「国立長寿医療研究センター」)老年学・社会科学研究センターの冨田浩輝研究員、島田裕之センター長らの研究グループは、聴力が低下した地域在住高齢者の孤独感が、要介護状態の新規発生と関連することを明らかにしました。

 近年、社会的孤立や孤独は、身体的・精神的疾患等の健康問題と関連し、医療・介護コストを増大させることも指摘され、喫緊の課題として世界的に注目されています。日本でも、2021年2月に「孤独・孤立対策担当大臣」が設置され、政府一体となって孤独・孤立対策に取り組んでいます。

 これまでの先行研究では、高齢者の孤独感と要介護状態の発生との関連は数多く報告されていますが、依然として一定した見解が得られておらず、その関連性は十分に解明されていません。他方、老年症候群の最も一般的な症状の一つである聴力低下は、他者とのコミュニケーションを制限し、うつ病や孤独感など様々な精神心理症状を引き起こす危険因子であるため、身体的・社会的フレイルとも関連することが報告されています。しかし、加齢に伴う聴力低下が、孤独感と要介護状態の新規発生に与える影響については、これまでほとんど検討されていませんでした。

 そこで本研究では、国立長寿医療研究センターが実施している、老年症候群のリスク把握や効果的な対処方法を明らかにするための大規模コホート研究(National Center for Geriatrics and Gerontology–Study of Geriatric Syndromes:NCGG–SGS) に参加した、愛知県東海市在住の65歳以上の高齢者5,563名を対象に、聴力低下の有無により層別化し、孤独感と要介護状態の新規発生との関連を縦断的に分析しました。

 孤独感を「UCLA孤独感尺度: 第3版(University of California, Los Angeles Loneliness Scale)」という質問項目で尋ね、聴力低下は、難聴高齢者のハンディキャップスクリーニング検査(Hearing Handicap Inventory for Elderly-Screening : HHIE-S)で評価しました。本研究の参加基準を満たした対象者 4,739名のうち、947名(20.0%)にHHIE-S 9点以上と聴力低下が見られました。要介護状態の新規発生は、聴力低下のない群では4.5%であったのに対し、聴力低下のある群では8.3%と、新規発生率の割合が、χ2検定にて有意に高いことが示されました(χ2値 = 21.9, p < 0.05)。

 孤独感の有無を従属変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果、対象者全体(4,739名)では、男性、教育年数が少ない、現在は仕事をしていない、一人暮らしである、運動習慣がない、難聴の重症度が高い、うつ傾向といった特徴のある人が、孤独を感じやすいことが示唆されました(表1)。

表1. 二項ロジスティック回帰分析における孤独感と潜在的な交絡因子との関連

二項ロジスティック回帰分析の結果、高齢者の孤独感には、性別・教育年数・現在の仕事の有無・一人暮らしであるかどうか、運動習慣があるかどうか・難聴の重症度・うつ症状の有無が関連することが示されました。

 次に、聴力低下のなし群と、聴力低下あり群で分類した、孤独感と要介護状態の新規発生に関するカプランマイヤー生存曲線を示します(図1-A、図1-B)。年齢、性別、教育年数、および孤独感の潜在的な交絡因子とされた変数により調整したCox比例ハザード回帰分析の結果、最初の調査から24ヶ月後、聴力低下なし群では、孤独感は要介護状態の新規発生と有意な関連は認められなかった一方、聴力低下あり群では、孤独感を有する場合、約1.7倍も要介護状態の新規発生が多く認められました(オッズ比:1.71, 95%信頼区間:1.05-2.81)(図1-B)。

聴力低下がない場合、孤独感がある人とない人を比べると、要介護状態の新規発生者数に有意な差は認められませんでした。

聴力低下がある場合、孤独感がある人とない人を比べると、要介護状態の新規発生者数に有意な差が認められました。

図1. 聴力低下の有無で層別化した孤独感と要介護状態発生のカプランマイヤー生存曲線

 本研究は、聴力低下のある高齢者は、聴力低下のない高齢者と比べ、要介護状態の新規発生の割合が高いことを示しました。特に、聴力低下を有する高齢者では、孤独感が要介護状態の新規発生と関連することを見出した点が特徴です。聴力低下は、老年症候群の最も一般的な症状であり、さまざまな危険因子の中でも孤独感は、聴力低下のある地域在住高齢者の介護予防戦略において、特別な注意をする必要があると考えられます。

本研究成果は、2023年4月6日にJAMA Otolaryngology-Head & Neck Surgeryに掲載されました。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 社会技術研究開発センター(RISTEX)社会技術研究開発事業「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」におけるプロジェクト名「生きがいボランティアシステムの構築による社会的孤立・孤独の持続的な予防」(研究代表者:島田 裕之(国立長寿医療研究センター 研究所 老年学・社会科学研究センター センター長)、研究開発期間:2022年10月~2024年3月)(JPMJRS22K2)の支援を受けて実施しました。

※科学技術振興機構(JST) 社会技術研究開発センター(RISTEX)は、2021年度に発足した「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」(プログラム総括:浦 光博(追手門学院大学 教授/広島大学 名誉教授))において、さまざまな社会構造の変化を踏まえ、社会的孤立・孤独のメカニズムの解明、孤立・孤独のリスク評価手法(指標など)および社会的孤立・孤独の予防施策開発と、そのPoC(Proof of Concept:概念実証)までを一体的に推進します。2022年度に採択されたプロジェクトは、1年半程度のスモールスタート(可能性検証)期間の後、ステージゲート評価を通過すれば、3年程度の本格研究開発期間に移行します。

URL: https://www.jst.go.jp/ristex/koritsu/このリンクは別ウィンドウで開きます 

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予防老年学研究部 冨田浩輝(トミダ コウキ)
電話:0562(44)5651
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