プレスリリース
2022年8月24日
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター(理事長:荒井秀典)老化疫学研究部の大塚礼部長を代表とする研究グループは、サントリーウエルネス株式会社(代表取締役社長:沖中直人)との共同研究で、多価不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)の摂取量が多いと、認知機能に関わる側頭皮質や前頭皮質などの局所脳体積の減少が抑制される可能性を「NILS-LSA(国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究)」の縦断解析により見いだしました。
NILS-LSAは、愛知県大府市・東浦町の地域住民から性・年代別に層化無作為に選出された40歳以上の中高年者を対象に、医学・心理・運動・身体組成・栄養など多角的な観点から老化・老年病予防策を検討するコホート研究です。
魚、卵、肉等の食品から日常的に摂取される多価不飽和脂肪酸のDHAやARAは、脳のリン脂質の主要な構成成分であり、加齢により脳内の量が減少することが知られています1。高齢者ではこれらの多価不飽和脂肪酸を補うことにより注意、作業記憶などの認知機能が維持される可能性が報告されています2,3。加齢に伴う認知機能低下に先行する現象として、脳体積の減少が注目されており4、DHAやEPAの摂取と、認知症でない高齢者での脳体積維持との関連について近年幾つかの研究報告があります5,6。しかし、これらの報告は魚介類の摂取が少ない欧米諸国の報告であり、食事からのDHAやEPAの摂取量が多い日本などの国での研究報告はありません。さらに、ARAの摂取量と脳体積に着目した研究もこれまでに報告されていません。
今回、NILS-LSA第6次調査(2008~2010年)の参加者のうち、認知症の既往や認知機能障害の疑いがなく、頭部MRI測定をはじめとした解析に必要な項目を有する60-89歳の男女810名を対象に、2008~2010年(ベースライン)時の多価不飽和脂肪酸の摂取量と2年間の局所脳体積の変化量との関連を縦断的に解析しました。脳体積は3次元MRI画像をもとに縦断FreeSurferを用いて算出しました。
その結果、日本人の集団において、ARAの摂取量が多いと前頭皮質の体積変化量の減少が小さく(図1)、認知機能低下のリスクも低いことが見いだされました。さらに、DHAやEPAの摂取が少ない集団でのサブグループ解析においては、DHAやEPAの摂取が多いと側頭皮質の体積変化量の減少が小さいことが明らかとなりました(図2)。本結果は、魚介類の摂取が少ない国からの報告と同じ傾向を示しています5,6。これらの結果より、多価不飽和脂肪酸であるDHA、EPAおよびARAの摂取は、加齢に伴う局所脳体積の減少を抑制し、高齢者の脳の健康の維持につながる可能性が考えられます。
本研究は、DHAとEPAの摂取量が多い日本人高齢者の集団にて、多価不飽和脂肪酸の摂取量と局所脳体積との関連を世界で初めて示しました。また、世界的にも、過去の同様の縦断研究と比べると最も規模が大きい研究です。今後も観察研究を継続することで日本人における多価不飽和脂肪酸と脳体積変化との関係性がより明らかとなることが期待されます。
本研究成果は、米国専門学術誌「Neurobiology of Aging」(Online ahead of print, 2022;117:179-188.)に2022年6月3日に掲載されました。
H Tokuda, C Horikawa, Y Nishita, A Nakamura, T Kato, Y Kaneda, H Obata, T Rogi, M Nakai, H Shimokata, R Otsuka. (2022) The association between long-chain polyunsaturated fatty acid intake and changes in brain volumes among older community-dwelling Japanese people.Neurobiol Aging, 117, 179-188.
論文リンク:https://doi.org/10.1016/j.neurobiolaging.2022.05.008
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